古居利康 12年10月14日放送
葱
もうひとりのわたし 樋口奈津の場合
いまでは、名前と言えば、
苗字と名前をあわせて姓名とするのが
あたりまえだが、江戸時代までは、
苗字をもたないひとの方が多かった。
明治の世になって
誰もが苗字を持つことになっても、
女性だけは苗字を用いる習慣があまりなかった。
結婚すれば変わってしまうものを、
嫁入り前の娘が用いるべきでない、と考えられた。
後世、「樋口一葉」として知られる女性作家は、
原稿にただ「一葉」と署名した。
戸籍名、樋口奈津。
「一葉」は、ダルマさんに由来する。
と言うと、なぞかけのようだが、
経済的に困窮していた樋口家のことを
「お足がない」と引っかけ、
手足のない達磨大師が、一枚の葦の葉に
乗って中国へ渡った伝説になぞらえた
と伝えられる。