古居利康 12年10月14日放送


ROSS HONG KONG
もうひとりのわたし 色川武大の場合

色川武大は、
「阿佐田哲也」という名前で、
麻雀小説を量産した。

「阿佐田哲也」以前に、
麻雀小説というものは存在しなかった。
文章と文章の間に麻雀牌の状況図を挿入する
前代未聞の小説。

「阿佐田哲也」は、
関東で9番目に強いプロの雀師だったという。
欲望。駆け引き。やっかみ。裏の裏。
麻雀を題材にしながら、人間というものの
わけのわからなさを描いた。

そんな阿佐田哲也が、
本名である「色川武大」にもどって、
自伝的な小説を書き始める。

元海軍中佐だった父との確執。
ナルコレプシーという睡眠障害に悩み、
白昼夢のごとき幻覚に苦しむ狂人としての自分。

亡くなる直前、妻にこう言った。

「阿佐田哲也君をやれば、
 なんとか生活はしのげるが、これからは
 純文学一本に絞っていこうと思う。
 オレにはもう時間がないんだ」

1989年、昭和の最後の年、
色川武大と阿佐田哲也はこの世を去った。

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