三島邦彦 13年2月23日放送
Susan NYC
登場人物たち 断食芸人(カフカ『断食芸人』)
カフカの名作、『断食芸人』の主人公は、
その名の通り断食をすることを生業にしている。
檻の中で、断食何日目という札をかかげて、
ただひたすらに時間の経過を待つ日々。
飲み食いをせずに生きる。
そのシンプルなエンターテイメントに、人々は驚く。
時間が経つほどに、誰かが陰で食事を与えているのではと疑う人が増える。
議論が高まるほど注目は集まり、見に来るお客の数が増える。
しかし、人は飽きる。残酷なほど突然に。
そしてみんなに飽きられ、忘れられた後も、断食芸人は食事をしなかった。
ある日、サーカスの団員が、檻の中にいる断食芸人を発見した。
彼はまだ生きていた。何も食べず、何も飲まずに。
発見した男は、なぜ断食をし続けるのかを聞いた。
断食芸人はこう答えた。
美味いと思う食べ物が見つからなかったからなんだ。
見つかってさえいればな、世間の注目なんぞ浴びることなく、
あんたやみんなみたいに、腹いっぱい食べて暮らしていただと思うけどね
みんなに飽きられて死んだ男、断食芸人。
彼もまた、世界に飽きていたのかもしれない。