澁江俊一 13年9月15日放送



日本のおじいさん

日本のおじいさんを演じたら
右に出るものがいなかった俳優。
彼の名は、笠智衆。

初めて老け役を演じたのは、なんと32歳。
小津安二郎監督作品「一人息子」だった。
以来、小津作品の常連になり、
後に山田洋次監督「男はつらいよ」で
柴又の住職、御前様を演じ続けた。
小津を敬愛する映画監督ヴィム・ヴェンダースは
映画「東京画(とうきょうが)」撮影のため
1983年、笠智衆にインタビューしている。

小津はなかなか笠の演技にOKを出さない。
同世代の俳優が息子を演じる現場で、
ひとり、おじいさん役を演じるのは
とてもむずかしかったという。
フィルムに映るすべてを計算しつくし、
偶然には何の期待もしなかった小津。
年も若く、熊本の訛も抜けない朴訥とした笠の演技に
小津は何を求めたのだろう。

もしかしたら小津は、
すでに日本から失われつつあった、
おじいさんという残像を笠智衆に
求めていたのかもしれない。

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