藤本宗将 13年9月22日放送
© Glenn Gould Foundation
ナンバー2の男 グレン・グールド
クラシック界の異端児と言われたピアニスト、グレン・グールド。
椅子の高さを極端に下げ、背中を丸め、演奏しながら歌い、体を揺する。
リズム、テンポ、アクセント…
どれもが強烈で躍動感に満ちているが、音色は驚くほどデリケート。
決してスタンダードとは言えなかったが、
その独特の演奏は多くの人を魅了した。
彼の演奏のなかに、カレル・アンチェルが指揮するトロント交響楽団と、
ベートーヴェンのピアノ協奏曲5番『皇帝』を共演したものがある。
このとき、もともと予定されていた奏者はグールドではなかった。
本来の奏者は、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ。
グールドと並ぶ世界屈指のピアニストであったが、
そのスタイルは対照的でミスタッチの無い演奏を信条とした。
しかし完璧主義者のミケランジェリは、調律の問題を理由に演奏をキャンセル。
代わりに急遽グールドが登場することとなったのだ。
このとき,グールドはこんな言葉を漏らしたという。
「なんと、ナンバー1のピアニストがナンバー2の代役とはね!」
ただし指揮者アンチェルの感想は、ちょっと違っていたようだ。
「ミケランジェリ? グールド?
あなた方はどこからそんな変な人ばかり見つけてくるんだい?」
指揮する立場からすれば、どちらも扱いづらい変人という点で
大差はなかったのかもしれない。