村山覚 14年11月22日放送

141122-04

織田作之助・肌身離さず

昭和の文豪、織田作之助。彼が三十三で死ぬまで肌身離さず持ち歩いていた
桐箱の中に白い封筒があった。そこには先に亡くなった妻・一枝の写真と
彼女のものと思われる遺髪が収められていた。織田作之助の代表作
『夫婦善哉』にはこんな台詞がある。

 “私は何も前の奥さんの後釜に坐るつもりやあらへん、
 維康を一人前の男に出世させたら本望や”

日々の暮らしにも困窮していた織田が、
一人前の男に出世していく十年間を支えたのは、他ならぬ妻の一枝であった。

小説『夫婦善哉』で一番有名なシーンは、
二杯のぜんざいを啜りながらの男女の会話であろう。男は言う。

「一杯山盛にするより、ちょっとずつ二杯にする方が沢山(ぎょうさん)
 はいってるように見えるやろ、そこをうまいこと考えよったのや」

対して、女は言う。

「一人より女夫の方がええいうことでっしゃろ」

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