飯國なつき 15年6月21日放送

150621-03
emiton
太陽③ 吉野弘

詩人吉野弘の作品、「夕焼け」。

夕暮れ時の電車の中で、
心やさしい娘が、お年寄りに席を譲る。
ありがとうの言葉もなくそそくさと座るお年寄り。
そんなことが三度も繰り返され、
辛い気持ちにおそわれたのか、やりきれなくなったのか
とうとう娘は、うつむいたまま、席を立たなくなった。

詩の最後は、こう結ばれている。

 固くなってうつむいて
 
娘はどこまで行ったろう。

 やさしい心に責められながら
 
娘はどこまでゆけるだろう。

 下唇を噛んで
つらい気持で
 美しい夕焼けも見ないで。

吉野弘のことばは、誰もが経験したことのある、
けれど輪郭のぼやけた気持ちを形にしてみせる。

胸が痛くなるほど、はっきりと。

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