蛭田瑞穂 15年12月13日放送
笑いのはなし 榎本健一と菊谷栄 その3
榎本健一率いるエノケン劇団の座付作家として
数々の笑いを世に送り出した、菊谷栄。
1937年、日中戦争が勃発すると菊谷に召集令状が届く。
故郷青森の部隊に入隊した菊谷は、
中国に赴くため列車で品川に向かった。
新宿で舞台に出ていた榎本はその知らせを聞くと、
客席に向かって深々と頭を下げた。
この芝居の本を書いた座付作家が
お国に召されて品川駅を通過します。
どうか一時間だけ暇をくださることをお許しください。
「行ってこい!」。
観客から拍手で送り出された榎本健一は品川駅に駆けつけ、
僅かな停車時間に無二の親友を励行した。
それが作家と役者の今生の別れとなった。