大友美有紀 16年3月6日放送
「菊池寛への言葉」吉川英治
文壇の大御所と呼ばれ、後進の育成に心を砕いた菊池寛。
今日はその命日。
葬儀の日、友人代表として弔辞を読んだのは、吉川英治だった。
「宮本武蔵」「三国志」「私本太平記」などの
傑作を書いた国民的作家だ。
菊池はかつて息子に
「自分の文芸的素志を継いでくれるものがないのはやはり淋しい」と
言ったことがあった。吉川はそれを否定する。
菊池寛氏 あなたの文芸的種子は自らの御想像以上
昭和年代の地上に蒔かれています。
日本の地は今まだ春浅い冷たさにあり
真の自由と和楽の日は遠いとしても
かならず人々の胸にある菊池文学の香りは
時にあって開花し この国の人々を幸福にし
また人から愛されてゆくにちがひありません
弔辞を終え、吉川は声を出さずに
唇だけで「菊池 サヨナラ」と言ったようであった。