渋谷三紀 16年5月21日放送
あのひとの好物 林芙美子
作家、林芙美子。
貧しい暮らしの中で書いた「放浪記」が、
ベストセラーになった。
印税を手に、芙美子は憧れのパリ留学を果たす。
パリでの芙美子は、
文化、酒、美食、そして恋にどっぷりとひたる。
髪を短くカットし、
アール・ヌーボーの椅子に腰かける姿は、
日本にいたときとは別人のようだ。
その芙美子が、帰国後すぐに向かった場所がある。
波止場のそばの小さいうどん屋で、
葱をふりかけた熱いうどんを食べた。
天にものぼるやうにおいしい。
たつた六銭だつたのに吃驚してしまつた。
クロワッサンもカフェオレも知った。
けれど、父母との放浪暮らしの記憶は、
深く濃く、芙美子のからだに刻まれていた。