大友美有紀 16年6月5日放送
Kirsty S
「棟方志功」背広
上口愚朗(かみぐちぐろう)という人がいる。
本名上口作次郎。宮内庁御用達の洋服店で修行し、
26歳で独立し自分の店を持った。
棟方志功は、上口と「ナカヨシ」だった。
共に小学校しか出ていない、学ぶ事に貪欲、
吸収力も半端なものではなかった。
上口の作った服を着て他の人と共に写真を撮ると、
判然と群を抜いて立派なことがわかる、
全く驚きだ。何か知らない底からの位(くらい)がある。
仕事柄、棟方は上半身に筋肉がついている。
上口が棟方のために仕立てた背広は、
左右の襟も裾もポケットの形も違い、
ボタンホールがひとつしかない。
一度着用すると、別になんの破綻もなく、
着姿をこわさない、妙に不思議なこの背広。
棟方のいちばんのお気に入りだった。