大友美有紀 16年10月2日放送
ORAZ Studio
「作家と本」出久根達郎
直木賞作家にして古書店店主、出久根達郎は、
いつごろからか本の書き込みや傍線が派手になったと
感じていた。自分の本だからどう読もうと勝手だが、
古本屋としては、色とりどりのマーカーの線が引かれた本を
堂々と売りに来られると弱ってしまう。
本の後ろに住所氏名、電話番号を書き込んだものなどは、
墨で消すこともある。
昭和二十年一月二十七日 敵五編隊帝都空襲ノ日
アサコサンヨリコレヲイタダク
ワガ最良ノ日ナリ 感激言語ニツクセヌ
大事ニ読ミススメル 何度モ抱キシメル
生涯離サヌ
アンドレア・マヨツキ「外科医の手記」に書き込まれた言葉。
生涯離サヌはずの本が、出久根の古本屋に流れてきた。
いたずら書きとは思えない。
いうにいわれぬ運命があったのだろう。
本は、その存在自体が物語になることもある。