大友美有紀 16年10月2日放送
kyu3
「作家と本」万城目学・フロイト
作家・万城目学は、大学時代、友人と琵琶湖に釣りに行った。
友人は「夢判断 フロイト」の文庫本を持ってきていた。
面白いの? と聞くと面白くないという。
釣り竿の上にフロイトを置き、友人はうたた寝をしていた。
当たりが来たとき、文庫本を琵琶湖に落としてしまった。
数日後、その友人はまた「夢判断 フロイト」を持っていた。
面白いの? と聞くと面白くないと返ってきた。
でも最後まで読みたいから。
面白くなくても読む。何はともあれ読む。
それが極めてぜいたくな時間の使い方だと知ったのは、
私が三十歳になってからのことだ。
釣りをしながら、ぼんやり本を読むなど、
人生最高の贅沢のひとつだ。
だが、そのときはそれがわからない。
何も考えず、じゃぶじゃぶ湯水のように貴重な時間を浪費する。
それが若さの美しいところであり、憎たらしいところでもある。