大友美有紀 16年10月2日放送

161002-07
Nixie+
「作家と本」高山文彦・プルースト

ノンフィクション作家・高山文彦は学生時代、
飲みしろ欲しさに、よく古本屋に本を売りにいった。
あるじは痩身のクリスチャンで単行本を十冊ばかり持っていくと
いつも決まって五千円という高値で引き取ってくれた。
マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」全巻を
売りにいった時は、八千円で引き取ってくれた。

 こうしてまで飲みたい酒とはなにかね。
 あたしゃ酒はやらないからわからないけどさ。
 まあプルーストの分まで懶惰(らんだ)な夢に溺れることだね。
 とりもどしたくなったらおいで。
 八千円で譲ってやるから

高山はジーンズの尻ポケットに金を突っ込んで、
泣きそうな顔で夜の街に出て行った。
その後も取り戻すどころか、やけになって本を売り続けた。
プルーストはずっとあるじの背中の棚にあった。

タグ:

«    »

topへ

コメントをどうぞ

CAPTCHA



login