蛭田瑞穂 18年4月15日放送
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壁を越える 村上春樹
村上春樹のエッセイ「ランゲルハンス島の午後」は、
中学一年の春、生物の最初の授業で教科書を忘れ、
自宅まで取りに帰された出来事が綴られている。
教科書を持って学校に戻る途中、
公園で一息つこうとした村上少年は春の匂いに誘われて、
そのまま芝生に寝転んでしまう。
頭の下に敷いた生物の教科書からも春の匂いがした。(中略)
まるで春の渦の中心に呑みこまれたような四月の昼下がりに、
もう一度走って生物の教室に戻ることなんてできやしない。
1961年の春の温かい闇の中で、僕はそっと手をのばして
ランゲルハンス島の岸辺に触れた。
人は時にはさぼってもいいんだよ。
村上春樹がそう言っている気がする。