古居利康 19年5月25日放送
英一蝶・島一蝶
江戸の人気絵師、
英一蝶が島流しに遭ったのは、
元禄十一年。
その三年後、浅野内匠頭が
江戸城殿中で吉良上野介に斬りかかる。
その次の次の年、浅野の元家臣四十七名が
吉良邸を襲撃し、主君の遺恨を晴らす。
世に言う、赤穂浪士の討ち入り。
三宅島にもその知らせは届いていただろうか。
英一蝶、齢、五十をとおに越えていた。
その後、徳川綱吉が亡くなる。
将軍逝去の恩赦で無罪放免となり、
英一蝶は江戸に帰れることになった。
島には十二年いた。
江戸帰還の二年前、親友其角が亡くなっていた。
酒好きで、豪放磊落で、憎めない男だった。
二度といっしょに遊べないことが悔しかった。
帰りの船のなかで一頭の蝶を見つける。
これは自分だ。自分は生まれ変わって
生きなおすのだ。
そう思った男は、古い名を捨て、
「英一蝶」の名をはじめて名乗った。
五十八歳になっていた。