熊埜御堂由香 09年11月15日放送
センセイと乙羽さん
老人だけがでてる映画なんてウケるかしら・・・
女優、乙羽信子は、不安だった。
夫である新藤兼人監督が、
老いをいかに生きるかをテーマにシナリオに書き上げた
「午後の遺言状」
80歳の新藤監督、主演女優は89歳の杉村春子。
70歳の乙羽信子も出演する予定だった。
新藤監督もまた不安だった。
撮影がはじまる直前に、乙羽信子は、肝臓がんの手術をする。
余命は1年か、1年半か、といわれた。
病状をはっきりしらない本人を前に、
映画の製作を進めるべきか新藤監督は悩んだ。
そして、だした答え。
僕らは40年以上、映画を通じで行動を共にしてきた「同志」だ。
別れにのぞんで、何をすべきか、
彼女の女優としての最後の場をととのえるべきだ。
スタッフだけの完成試写をしてから、乙羽信子は静かになくなった。
出会ってから、別れるまで、
ふたりは、どんなときでも、お互いをこう呼び合った。
センセイ、乙羽さん。
字幕屋の妙
「君の瞳に乾杯」
映画「カサブランカ」の名台詞だ。
いや、字幕屋「高瀬鎮夫」の名字幕といったほうが正しい。
もともとは
Here’s looking at you, kid
「お嬢さん、君を見つめて乾杯」というような意味だ。
字幕は1秒につき3〜4文字。
制約が、言葉を磨き上げ、
日本中を魅了する台詞を残した。
押井守と宮崎駿
「映画を発明する」
といい、実験的なアニメに挑む、押井守。
「映画の奴隷になる」
といい、子供にも愛されるアニメを追及する宮崎駿。
日本アニメの力を世界に知らしめた、ふたり。
押井は宮崎を「宮さん」と呼び親しくしていた。
会うと、話がとまらないくせに
周りが喧嘩かと心配するほど意見があわない。
押井守が若い人に希望を伝えたいと「柄にもない」ことを言って
撮った映画がある。「スカイクロラ」
インタビューで押井は言った。
宮さんみたいに、正座してオレの話をきけって言うんじゃなく、
後ろからそっと語りかけることなら、僕にもできる気がしたんだ。
反発しあいながらも、意識する。
このふたり、似たもの同士の親父と息子みたいだ。