長谷川智子 20年7月11日放送
蝉しぐれの夏
藤沢周平 蝉しぐれ
主人公文四郎と、幼馴染ふくの淡い恋は、夏にはじまる。
少年文四郎は、へびに噛まれたふくの指を口に含み、血を吸いだしてやる。
礼を言うふくの色白のほおが、なぜか気になった。
いつもと変わらないはずなのに。頭上では蝉が鳴いていた。
数十年後。
別々の人生を歩んだ二人に訪れたひとときの逢瀬。
一人になってから、文四郎は
「さっきは気づかなかった、里松林の蝉しぐれ」に包まれて
子どもの頃に遊んだ雑木林を思い出す。
脳裏には、ふくの白い頬も浮かんでいただろう。
夏に始まり、夏に終わった、長い長い恋の物語。