厚焼玉子(事務局・中山佐知子)

厚焼玉子 17年1月7日放送

170107-04
コーッターター
七草その4 大平与兵衛

1月7日。七草の日。

東京なら冬でも緑のハコベを摘むことができるが、
草はおろか地面さえ見えない雪国の七草は
何を食べるのだろう。

大平与兵衛という人の「農家年中行事」には
江戸時代の越後の国の七草が記されているが、
大根、ごぼう、人参、昆布、スルメ、里芋、こんにゃく…
雪の中で保存ができる根菜類を中心にした
いかにも雪国らしい七草だ。

いまでも雪の深い地方には
干し柿や黒豆、栗などを七草にするところもあると聞く。
芹やナヅナにこだわることなく
オリジナルな七草があってもいいのかもしれない。

topへ

厚焼玉子 17年1月7日放送

170107-05
k_haruna
七草その5 将軍さま

1月7日。七草。

江戸時代は七草の節句が公式行事だったので
将軍さまも七草粥を召し上がった。

武家の七草粥は作るのにも作法があった。
台所の係は紋付に裃をつけて
七草の前の日の夕方、
おまじないの歌を歌いながら
まな板にのせた七草をトントン叩いた。

七草粥に使われるのは田畑に生える野草だが、
胃を丈夫にしたり肝臓の機能を回復させるなどの
効能を持っている。

将軍さまがいなくなっても
七草が公式な行事でなくなっても
七草粥は健康食として愛されている。

topへ

厚焼玉子 16年6月18日放送

160618-01
TSUNEAKI HIRAMATSU
紫陽花 朔太郎

 こころをばなににたとへん
 こころはあぢさゐの花
 ももいろに咲く日はあれど
 うすむらさきの思ひ出ばかりはせんなくて。

前橋出身の詩人、萩原朔太郎は
心を紫陽花に例えた詩を書いた。

よころびの日の底には
さびしかったりつらかったりした思い出が
沈んでいるのだろう。

どんなに青いアジサイの花も
枯れる間際には赤みを帯びるという。

朔太郎のふるさと前橋では
明日19日からアジサイ祭りが開催される。

topへ

厚焼玉子 16年6月18日放送

160618-02
Yamaguchi Yoshiaki
紫陽花 蛍

アジサイの季節は蛍の季節でもある。

日が落ちて
川沿いのアジサイの道を行けば
輪郭もおぼろになった花の下に
いくつもの小さな光が集まっている。
ああ、これも花か。夜に咲く光の花か。

そんな情景を詠んだのだろう。
藤原定家のアジサイの歌がある。

 あじさいの 下葉にすだく蛍をば
 四ひらの数の添うかとぞ見る

ここに「四ひらの数」と詠まれた花びらは
実は花びらではなく
アジサイの萼の部分らしいのだが、
美しさを鑑賞するとき、
そんな知識は忘れておこう。

topへ

厚焼玉子 16年6月18日放送

160618-03
kazutan3@YCC
紫陽花 アジサイ寺

アジサイ寺のアジサイを植えたのは誰だろう。
アジサイの季節に
ふと、そんな疑問が浮かんだ。

北鎌倉のアジサイ寺、明月院は
第二次世界大戦後に参道を整備する杭が足りず、
杭の代わりにアジサイを植えたのがはじまりだそうだ。

丹波のアジサイ寺、観音寺は
およそ50年前のご開帳の記念に植えた1万株のアジサイが
すくすく育って
いまではアジサイ寺と呼ばれるようになっている。

松本市のアジサイ寺、法船寺は (ほうせんじ)
40年ほど前からみんなでアジサイを植えはじめた。
アジサイの花の向こうに見えるのは北アルプス。
夕焼けに染まると誰もが息を呑む。

アジサイのある風景を作ってくれた人に感謝しよう。

topへ

厚焼玉子 16年6月18日放送

160618-04
さちどん
紫陽花 アジサイ祭り

アジサイの名所を調べたら
東京だけで、あっという間に10カ所を超えた。

神社のアジサイ、遊園地のアジサイ、
植物園のアジサイ。
白いアジサイを集めた斜面もあれば
池のほとりに咲くアジサイもある。

そういえば、
上野の不忍池にもアジサイの群落があって
歩く人の目を楽しませているし
墨田川沿いの隅田公園には2kmほどのアジサイロードがあった。

ビルに囲まれて咲くアジサイは
梅雨空の下にともった灯りのようだ。

topへ

厚焼玉子 16年6月18日放送

160618-05
KYR
紫陽花 盗人

むかし、
愛知県蒲郡の形原村では(かたのはらむら)
誰にも見つからずに
他所の庭のアジサイを盗んできて玄関に吊すと
一年は災難に遭わずお金もたまるという民間信仰があった。

花の時期になると
村の人々は年に一度の盗みをする。
ときには家の人に見つかって
気まずい思いをすることもあったのだろう。

それを見かねた補陀寺(ふだじ)の住職さんが
「それなら」と言って
お寺にアジサイを植えた。
仏さまがくださるアジサイだ。
村人の罪の意識も少しは軽くなっただろうか。

いまこの村はアジサイの里になり、
補陀寺の周辺には
5万本のアジサイが咲いている。

topへ

厚焼玉子 16年6月11日放送

160611-01
ひでわく
花と遊ぶ ホウセンカ

夏の庭で
少女たちはホウセンカの花を摘み
その汁で爪を染めた。

爪が赤く染まるから
ホウセンカの別名は爪紅(つまべに)
または爪くれない(つまくれない)

お母さんの口紅はいたずらすると叱られるけれど
ホウセンカの赤は子供にも許された。

おしゃれという言葉も知らず
ただ赤い色がうれしかったあの夏。

昔はよく見かけたホウセンカを
伊藤左千夫はこんな歌に詠んでいる。
 
 山里に友とひよれば 庭さきにつまくれなゐの花ぞ咲きける

topへ

厚焼玉子 16年6月11日放送

160611-02
ドラ猫
花と遊ぶ 朝顔

朝顔は夏休みになってから種をまくと
新学期になっても花は咲かない。

5月の末に種をまいた朝顔が花をつけるのは
8月のはじめ頃だし、
6月の半ばにまいた種は
8月の半ばにやっと咲きはじめる。

朝顔の観察日記には計画性が大事だと、
子供の頃に教えられた。

朝顔の花の色は赤、青、白が基本だが
原種の花は青色だった。
垣根に青い朝顔が咲くと
ふるさとの夏が涼しく思えた。

 朝顔や 一輪深き淵の色  与謝蕪村

topへ

厚焼玉子 16年6月11日放送

160611-04
nao
花と遊ぶ 露草

露草は染料になる。
ただし、その色は水で洗うと簡単に落ちる。
その性質を利用して
友禅の下絵を描くのに使われてきたが、
子供たちにとっては消えるインクの材料だった。

誰もいないところで
誰にも言えない言葉を書いて
あわてて水で消す。

空の青、水の青。
その明るい色は
紙に書いても、布を染めても
決して残ることはない。

露草は6月から咲き始め
夏休みが終わってもまだ咲いている。
見かけよりたくましいのかもしれない。

 露草や露の細道人もなし 正岡子規

topへ


login