鬼が笑った話 三國連太郎
30代なかばで老け役を演じるため、
上下の歯10本を麻酔もかけず引き抜いた。
役作りのためなら手段を選ばない、
「演技の鬼」と言われた三國連太郎である。
ある時は、浮浪者の心理を探るために、
ボロボロの格好で街中のカップルを脅し、
逮捕されそうになったこともある。
硬派な演技派俳優として知られたため、
「釣りバカ日誌」の温厚でコミカルな社長役は、
当初、本人は不本意だったようだ。
「昔の義理で出演している」
インタビューなどでもしばしばそう語っていた。
人が役をつくるのか。役が人をつくるのか。
20年続いたシリーズ最終作『釣りバカ日誌20 ファイナル』の
記者会見で三國はこうスピーチしている。
「混迷の映画界の中で暗中模索した冒険のような作品。
スタッフの作品作りに対する情熱は日本映画史に永遠に残る。
僕にとって生涯の仕事だった。」
演技の鬼は
日本中から愛される「スーさん」として、
スクリーンの中で楽しそうに笑っていた。