藤本組・仲澤南

仲澤南 18年2月17日放送

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作家の朝食 池波正太郎

神田駿河台に建つ小さなホテル、山の上ホテル。
ここでしか食べられない、特別な朝食があるのをご存知だろうか。
一口か二口で食べられるほどのおかずが11種類も並ぶ、
なんとも贅沢な和のお膳だ。

実はこの朝食を提案したのは、
『剣客商売』や『鬼平犯科帳』で知られる作家、
池波正太郎。

80年代後半のこと、
当時の料理長に池波が
「いろいろなものを少しずつ食べたい」
と要望したのがきっかけだった。

池波はこの朝食を肴に、ビールを嗜んでいたという。
連日徹夜で執筆していた彼にとって、
仕事終わりに食べるこの朝食は、
疲れを癒す、至福の時間だったのだろう。

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仲澤南 17年12月16日放送

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電話のはなし 松下幸之助

現在のPanasonicの礎を築いた、松下幸之助。

仕事熱心で「経営の神様
とも呼ばれた松下は、
社員の家にも頻繁に仕事の電話をかけた。
そして、いつもこう言ったという。

 君の声を聞きたかったんや。
 君の声を聞いたらな、元気が出るんや。

当時のことを、社員はこう話している。

 わたしは感動し、この人のためなら
 どんなことでも成し遂げようと思った。
 この人のような人間になろうと思った。

たとえ部下に対しても真摯に声を聞こうとする。
そんな松下の姿勢は、独特の人間観から生まれたものだった。
彼はすべての人間が偉大な存在であり、
尊敬すべき相手だと考えていたのだ。

仕事の電話1本にも、その人は表れる。
いや、生の声を届ける電話だからこそ、表れるのかもしれない。

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仲澤南 17年9月30日放送

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翻訳のはなし 清水俊二

日本を代表する翻訳家の一人、清水俊二。
彼はその生涯の間に、
2000本近い映画の字幕翻訳を行った。

中でも、1955年の映画「旅情」に、
彼の仕事が見えるワンシーンがある。

恋人がほしいなら、高望みせずに自分と付き合えばいい、と
ある男性がヒロインを口説くのだ。

「ステーキが食べたくても、
 飢えているなら目の前の“ラビオリ”を食べろ」

このシーンには、こんな字幕がついた。

「ステーキが食べたくても、
 飢えているなら目の前の“スパゲティ”を食べろ」

映画が公開された1955年当時、
日本でラビオリを知る人はほんの僅かだ。
直訳のままでは、字幕がストーリーの邪魔をする。

原作の世界を壊さずに、文化や時代の溝を埋める、
字幕翻訳ならではの技術が生んだ台詞だった。

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