たこ八郎
迷惑かけて、ありがとう。
これは、コメディアン、たこ八郎の言葉。
ボクサー時代にうけたダメージが原因で、
終生パンチドランカーの症状に悩まされた彼。
言語障害やおねしょ。
彼は誰かに面倒をかけるたび、
申し訳ない、と思う以上に、
助けてくれたことへの感謝を伝えたかった。
迷惑かけて、ありがとう。
その言葉には、当時国民的に愛された彼の、素朴なキャラクターが生きている。
植木等
実は超がつくほどの真面目だった、俳優・植木等。
かの「スーダラ節」のでたらめな歌詞を渡された時、
真面目な自分にこの歌が歌えるか、彼は大いに悩んだ。
そのとき、住職だった父親の一言でふんぎりがついたのだという。
”わかっちゃいるけどやめられない”
この歌詞には、親鸞上人の教えにも通ずる、人間の真理がある。
いい歌だから、がんばって広めなさい。
真面目に、能天気をやること。
高度成長期の男たちに、大きな共感を与えた歌のはなし。
HAPPYBOX
美輪明宏
美輪明宏、17歳。
その日は、まさに人生どん底の日だった。
店をクビになり、泊まるところもない。
どしゃぶりの雨の中を、ただ、力なく歩き続けていた。
こんなときこそ、夢をもてる歌を。
そう思い、シャンソンの「バラ色の人生」を歌いだす。
前向きに、声高に歌っているときだった。
横を走るトラックが泥水をはねる。
泥水が、口や目の中に入った。
その、バラ色の人生を歌っている口の中へ。
はりつめていた気持ちがゆるみ、座り込んで泣き出す。
彼は誓う。
いつか大きなステージで、満員の観客で、もういちどこの歌を。
その後、美輪は念願のヒット曲を生み、
日比谷公会堂の満員のステージに立っていた。
アンコールの演目は、あの日歌った「バラ色の人生」。
人生は、マイナスだった分だけ、プラスがある。
彼が信じていたその法則を、身を持って証明した瞬間だった。
アンリ・カルティエ=ブレッソン
20世紀を代表する写真家、
アンリ・カルティエ=ブレッソン。
美しい構図の中に物語が広がってゆく、
まるで一枚の映画のような写真を撮る天才。
彼が撮った、マリリン・モンローのポートレートがある。
あのセクシーな、アイコン化された彼女ではない。
こちらを向いて優しく微笑む、ブロンドの女性がいるだけ。
でも、どんな彼女の出演作を観るよりも、彼女のリアルがよくわかる。
これが、写真というものさ。
その一枚を通して、彼は私たちにそう語りかけてくる。
kirainet
荒木経惟 1
アラーキーこと、写真家・荒木経惟の撮る写真には、
カメラの日付機能をつかった日時が入るのが特徴である。
私小説こそ、もっとも写真に近いもの。
彼は写真をそう考えているからだ。
うまい写真の撮り方について、彼はこう指南する。
写真はその日の刹那さですから、
毎日シャッターをおすこと。
人生を撮る、ただそれだけ。
シンプルに感じるか、難しく感じるか。
それは、その写真家の人生しだい。
stunned
荒木経惟 2
90年代、ケータイにカメラがついた
2000年代にはいると、撮った写真を
瞬時に世界と共有できるようになった。
世界中の誰もが、カメラマンになっていく。
そんなライバルだらけの時代をむかえても、
アラーキーこと、写真家・荒木経惟は、
アタシは天才だから大丈夫、と言い切る。
人生のリアルとかが写っちゃうんだ、あたしの場合は。
そう語る彼の自信の根っこにあるのは、一枚の写真。
新婚旅行で訪れた柳川での川下りの途中、ゴザをしいた船底で丸まって眠る妻。
明るい未来へむかうはずの新婚旅行の写真に、
「黄泉の国へむかう船の上で、すやすやと眠る胎児」が写ってしまった。
自分でも思いがけない瞬間が写ってる。
そういうのが、神がくれるプレゼントなんだな。それが、天才っての。
いままで出した400冊以上の写真集。
そのすべての写真を名作と言ってのける天才は、
世界中の誰よりも、神に愛された写真家なのかもしれない。