五島のはなし。

五島のはなし(64)

「野良猫の 多き町にぞ よき人の 住んでる気がして にゃーごにゃご」

万葉集にこんな歌が収められているのを
ご存知でしょうか。
・・・知りませんよね。そんな歌ないし。

五島は野良猫が多いです。
猫にとっては魚が手に入りやすい
まさに楽園~キャッツ・パラダイス~だと思うんですが、
五島の猫たちがこれを読んだら(読んでたらぜひ教えてね)、
「俺たちには俺たちの苦労があるっ」と
抗議の声を上げるかもしれません。

「猫の気も 知らずに人は のほほんと いい気なもんだよ にゃーごにゃご」

かの有名な動物写真家、岩合光昭さんの写真集
「日本の猫」にも五島・福江島の猫が登場しています。
その写真集のあとがきに、
「私は日本中の猫を写真に収めながら、
猫たちと会話をしつづけた。するとどうだ。日本中の猫たちが
あこがれるパラダイスがあると言うではないか。聞けば五島という島である」
なんてことは一言も書いてませんでしたが、
そんなことを勝手に想像しました。

下の写真1は五島歴史資料館の入口。
よくみると猫がいます。
五島の歴史について語ってくれそうです。
(撮影はすべて素敵姉妹のお姉ちゃんの方)

 

写真1:歴史資料館

写真1:歴史資料館

写真2:資料館の写真のアップ

そしてまた猫

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五島のはなし(63)

口(←これ「私」を意味する独自の一人称です)にとって
いちばん古い記憶は
「祖母の家の前の坂道を自転車で猛スピードで駆け下りている」というものです。
3歳の記憶、と思ってるのですが
記憶ってあいまいだから、事実かどうかわかりません。

当時はまだ、その坂道沿いにたくさん子どもがいて
毎日のようにつるんで遊んでました。
10人くらいのガキンチョグループで、口はその一番下。

かくれんぼをしても、鬼ごっこをしても
鬼にはならない存在を
五島では「ガメチョロ」と呼ぶのですが
口はそのガメチョロだったです。
幼い頃の口の目標はただひとつ、
「ガメチョロを卒業する」。
でも、よくよく考えてみると、これって
その後の人生でも一貫した目標でありつづけてる気がします。

ガキンチョグループには評判の美人姉妹がいて、
そのお姉ちゃんがこの「五島のはなし」のために
五島の写真を送ってきてくれました。
ありがたいです。
まずは、ガキンチョグループのホームグラウンドだった坂道の写真を。
(五島・福江島の町並みってだいたいこんな感じな気がします)

撮影:美人姉妹の姉の方。

撮影:美人姉妹の姉の方。

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五島のはなし(62)

今日会社を出て駅へと歩いている時、
後ろを歩いてたサラリーマンたちの話し声に
つい聞き耳を立ててしまった。
会話の中のある一文だけが耳に飛び込んできたのだ。

「いやいや、そうは言っても五島列島とかは別ですけど!」

東京で五島列島の名を聞くことはあまりない。
すごく気になる。
ちょうど会社の先輩と歩いていて
話しかけられていたので
その前の話も、後ろの話もちゃんと聞き取れなかった。

何?何に対して「そうは言っても五島列島は別」なの?
その前にあった言葉を妄想してみると。

「私、世界中の島をめぐりましたけど、いいとこはひとつもなかったです」
「九州男児とかよく言いますけど、九州にほんとの九州男児なんていませんよ」
「日本にテポドンが届く場所なんてほんとはあるわけないじゃないですか」

・・・うーむ。どれも違う自信がある。

これを読んだ方の中に、
今日午後10時ごろ東京の汐留の地下通路で
「五島列島」という言葉を発した方はいらっしゃいませんか?

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五島のはなし(61)

五島の愛すべき魚たち(その4)

・・・突然「その4」ですけど。
一応、「あらかぶ」「はこふぐ」「くろ」につづくその4ってことで、「ミズイカ」です。
関東では「アオリイカ」と言います。

あ、そもそもイカって魚なのか?

 

まあとにかく。このミズイカを釣るのがですね、おもしろいんです。
まず小さいアジを釣って、
それを泳がせてミズイカを食いつかせます。

最近は「エギング」と言って、餌木(エギ:魚の形をしたルアーです)を使った
釣りが流行ってますが、口は断然アジの泳がせ釣りです。
ミズイカは甘くって弾力があってうまいんですよー。
いきのいいアジ(やその他の小魚)を食料にしているわけだから
きっとそのせいでうまいのでしょう。

写真は兄が釣ったミズイカです。
これはまだお子様サイズですけど。
兄は(口と違って)思いやりがあり、人として大物ですが、
釣る魚はだいたい小物です。
兄は(口と違って)やさしくて、子どものころから人に好かれたけど、
魚たちはどうも寄ってきません。

・・・ごめん、兄。
対抗心でつい言いすぎた。

ミズイカ

ミズイカ

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五島のはなし(60)

「こういう名前の外国人が五島に来たら、
さぞ盛り上がるだろう」シリーズ(その1)。

ヘッパバッカー・ユーケンさん(from オーストラリア)
→「うそばっかり言うから」さん。
 何を言っても島民から信じられない存在になるだろう。

テンゴバッカー・スンナーさん(from オーストラリア)
→「いたずらばかりするな」さん。
 島の子どもたちがついつい警戒してしまうだろう。

オージョコージョ・スンネさん(from ケニア)
→「えらく困ったね」さん。
 この人がいわゆる「困ったちゃん」な人だったら
 さぞかし素敵だろう。

アラヨ・ツンダヒゲナさん(from フィリピン)
→「まあかわいそうに」さん。
 島の人たちにすごくいたわってもらえると思う。

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五島のはなし(59)

口が五島を離れたのは18歳のとき、
大学に進学するためでした。
飛行機に乗って五島の空港を飛び立つと
飛行機はぐるっと島をめぐるように上昇し、
「なにこれパイロットが口を泣かせようとしてる?」と思うほど
島の姿をじっくり見せつける(そんな風に感じられた)ので
口は思わずぼろぼろと涙を流したのでした。

あ、ちなみに「口」が読みにくいでしょうが、
これ、今日から「私」の代わりに使うことになった一人称です。
「ハコ」という読み方をします。
以前、口のコピーライターの師匠であるKさんが
転勤の挨拶のときに

「自分というものはからっぽの箱みたいなもので、
 その箱に知り合った人たちや出来事が
 どんどん入って、それが自分をつくってるんだと思います」

ということを言っていて、
いいこと言うなあ、ほんとそうだよなあ、と思ったことを思い出し、
それで、「私」も「僕」も「俺」もしっくりこない口は、
口を口の一人称として使っていこうと(さっき)決めました。
(五島のはなし58参照)

口はいま36歳なので
口の半分のスペースが
島以外の年月と人と出来事で埋められたとも言えます。
この月日の境目って言うのはちょっと感傷的になるなあと
思って今日のはなしを書きだしてみましたが
実際はそんなに感傷的気分もわいてこず、
いまはただ、
この「口」という一人称がやっぱ使いにくいなあ、
という気持ちでいっぱいです。

これ五島の写真ですけど、五島のイメージとしてこの写真がふさわしいかは疑問。

これ五島の写真ですけど、五島のイメージとしてこの写真がふさわしいかは疑問。

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五島のはなし(58)

みなさまお元気でしょうか。
私は一昨日から鼻水が止まらず
いまもキーボードにぼたぼた落としながら書いてます。
それでも書くのは五島への愛の深さだと実感しています。

ほんとどうでもいいことですが、
(日々どうでもいいことばかりですが)
文章を書くときに
一人称をどうするかで毎回悩みます。
その悩みのせいで、五島のはなしをもう断念してしまいたいくらいです。
「私」だとかたくるしいし、
「僕」だと気恥ずかしく、村上春樹気取りかっ!って自分につっこみ入れたくなるし、
「俺」だと男気ある人みたいだし、かといって
いきなり五島弁で「おっが」と言い出すと
わけがわからなくなるし。

このさい新しい一人称を開発しようかと思います。
なんかこうイヤらしくない、風のような、
限りなく透明に近い一人称。

よし、次回からそれで書いてみます。

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五島のはなし(57)

人類ではじめて宇宙を旅した男
ガガーリンは「地球は青かった」という名言を残しました。
この言葉に匹敵するくらい
僕の中で重みがあり、かつ日本中いや世界中の人に
もっと広まってほしい言葉があります。
それは僕の父がかつて発した言葉です。

「あらかぶは、黒いほうがうまい」

あらかぶとは、カサゴという魚の五島での呼び名です。
僕のあらかぶへの偏愛については
以前も書きましたが、まだまだあらかぶについて
伝え切れていないところが多いと実感しています。

あらかぶは、同じあらかぶでも
住んでいる場所などの要因で
体色に違いがあるのです。
大まかに言うと、浅いところに住んでいるほうが色が濃く、
水深が深くなるほど体色が赤くなっていく。
そして、浅いところで釣れた、色の黒っぽいあらかぶこそが
いちばん味わいのよいあらかぶだ、という、
これはもう長年の経験、
五島の人の間で連綿と受け継がれてきた暗黙知の発露なのです。
ぜひ皆さんの毎日にも、この知恵をお役立てください。

「あらかぶは、黒いほうがうまい」

赤いあらかぶ。

赤いあらかぶ。

赤黒いあらかぶ。

赤黒いあらかぶ。

これが黒いあらかぶ。

これが黒いあらかぶ。

ちなみに黄色っぽいのも。

ちなみに黄色っぽいのも。

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五島のはなし(56)

五島と聞いても、
たいていの人には聞いたことあるようなないような、
な島ですが、
ある特定の人々に限っていうと
すごく有名です。
それは釣り好きの人たち。

「趣味が釣り」という人に出会うと、
もうウキウキしちゃいます。
「へえ、釣りが好きなんですかあ」と言ってるときにはもう
「僕は五島列島出身なんですよー」
「えっ、あの五島!?」
「そうなんですよ~(でへへ)」
「うらやましい。さぞ釣れるでしょう」
「いやあ、まあ、はい、釣れますよ~」
という一連の会話を期待していて、
そして必ず、話をその流れに持っていきます。
「さぞ大物が釣れるでしょう」という質問に対しては、
釣り師の習性で、ついつい上方修正されたサイズを語ってしまいます。

「釣り人同士で話をするときは、両手をひもで縛っておけ」・・・ロシアのことわざ。

五島の釣魚でたぶんもっとも有名なのが「クロ」。
全国では「メジナ」と呼ばれる魚です。
黒いから「クロ」というんでしょう。
でも釣り上げたときは青みがかったキレイな色をしています。
(細かいことを言うと、クロには「クチブト」と「オナガ」の2種類があり、
「オナガ」のほうがより青みがかった色をしている)
冬の荒磯に立ってクロを釣るのは至福の時間です。

写真は今年の正月に五島の磯で釣ったクロ。
大きさは、そうですね4、50センチ、いや60か、
いやいや70か80センチくらいはあったかな。

クロ(オナガ)

クロ(オナガ)

 

こういうとこで釣る。

こういうとこで釣る。

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五島のはなし(55)

私のこの10年来の悩みは、
ふたりの愛する女性の間で
ひきさかれるような思いをしていることです。

ひとりは、私の結婚相手。仮に「T」と呼びましょう。
Tは魅力的な女性です。
知的好奇心を刺激し、夢を見させてくれて、経済的援助までしてくれます。
Tにはおもしろい友人たちがいて、その人たちへのあこがれが
さらにTへの愛を加速させます。

そうしてTとともに、日々の暮らしを送っているわけですが
同時に、いつも私の心の中には「G」がいます。
Gは初恋の相手であり、
やさしくておおらかで、ぎすぎすしていない。
このところ年に1、2回しか会えず、会えたとしても短い時間なので、
会えないときはついつい彼女の良いところばかりがふくらんでしまい、
それがGへの思いを募らせる原因でもあったりします。

悩ましい。
Gのことを思いながら、Tとの結婚生活を送ることは
Tに対して失礼な気がして罪悪感を覚えます。
同時に「いつか君のもとに帰るから待ってて」と約束したGを
長い間ほっぽらかしにしているのにも、罪悪感を覚えます。

Tは東京です。Gは五島です。
・・・「アホくさ」って感じですよね。
わかりますわかります。
恋の悩みはいつも、他人にとっては「知るか」っていう話です。すみません。

ああでも苦しい。
苦しすぎて、こないだ会社の上司に思い切って相談しました。

「Gのことが忘れられません。
 でもTとの関係もダメにしたくない。
 というわけで、これからはGのもとで暮らし、
 でもTとの関係もそのまま・・・特に仕送りとして
 今Tからもらってるお金をGの家に送ってもらうわけにはいかないでしょうか」

上司は言いました。
「虫が良すぎるだろ」

私は言いました。
「ですよねえ」

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