蛭田組・森由里佳

森由里佳 16年5月22日放送

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東京 東京會舘イル・ド・フランス

1964年、東京五輪の年。

東京を訪れる人々に本物のフレンチを広めようと考えたフランス政府は、
食材、壁紙、シャンデリアまで全て本場から輸入して、
わずか3か月だけの期間限定レストランをひらいた。

選ばれた場所は、東京會舘。

腕を振るったレイモン・オリヴェは
「料理の魔術師」とも評される名シェフで、
東京會舘のシェフたちとそのレシピに大きな影響を与えた。

オリヴェ直伝のレシピは東京會舘でそっと受け継がれ、
閉店から50年以上経った今もなお、美食家たちの舌を愉しませている。

レストランの名は「イル・ド・フランス」。
パリを中心としたフランス文化発展の地の名前と同じである。

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森由里佳 16年4月10日放送

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Thalita Carvalho ϟ
ひらく 本の未来

ルリユールというフランス語をご存じだろうか。

ルが再び、リユールが糸で綴じる
という意味で、古くなった本を製本し直すという言葉だ。

ヨーロッパには今でも、
大切な本には職人の手で修復・製本・装丁が施され、
「世界に一冊だけの本」として、
親から子へと代々受け継がれるという伝統がある。

パリ17区の工房で働くルリユール職人のソフィー・クァンタンさんは、
「読書というより、本そのものが好きなの」と語る。

そう。
本の価値は、ひらいたページの中だけにあるのではない。
 
手軽に読むための電子書籍が席巻している今、
ルリユールという言葉がもつ尊い響きは、
本の未来を、再びひらいていくのではないだろうか。

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森由里佳 16年4月10日放送

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kina3
ひらく 王道

炊きたての白飯の上に
飴色に炒められた薄切りの玉ねぎ。

そこにきつね色の大きなトンカツが、
大きな体のせいですこし居心地わるそうに横たわる。

ぶ厚くてどっしりとしたカツと、
薄いがたっぷりの玉ねぎの押し合いへし合いを収めにかかるのは、
甘いそばつゆをふくんだ半熟とき卵だ。
「まあまあ」となだめるように両者をとろんと包みこみ、
ひとつの絶品料理へとまとめあげる。

東京は早稲田にある「三朝庵」は、
卵とじカツ丼の元祖の店だ。

大正7年、手違いで宴会用のトンカツが大量に余った翌日、
困った店主が冷めたカツをとき卵でとじて、
丼としてふるまったのが始まりだ。

日本の胃袋を満たすどんぶりの王道は、
とじたことで、ひらかれたのだ。

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森由里佳 16年4月10日放送

160410-03
のべ吉
ひらく 国

鎖国のさなかにある日本で、
国をひらき、力をつけるべきだと主張した男、
吉田松陰を知らない人はいないだろう。

理想を実現するために彼が着手したのは教育だった。

当時の教育機関は、
武家のための藩校、町人や商人のための寺子屋が主だった。
しかし松陰は、武家の人間であるにも関わらず、
藩校である明倫館を飛びだし、松下村塾をひらく。

身分による入学規制はおろか、
上下関係すらないその塾では、闊達な議論が交わされた。
後に開国した日本で首相をつとめる伊藤博文が塾生の一人であることは有名だ。

彼は、学びの門戸をひらいただけでなく、
一国の門戸をもひらいたのだ。

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森由里佳 16年3月12日放送

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kimuchi583
卒業① 北三陸と通学路

子どもたちの卒業を心から祝うのは、
家族と先生のほかに、どんな人がいるだろう。

2015年3月1日。
三陸鉄道の駅にあるちいさな看板には、
意外な人からの祝福が書かれていた。

 高校卒業おめでとう。
 さんてつの通学は朝が早くて大変だったでしょう。
 それにもかかわらず元気にあいさつしてくれてありがとう。
 君たちの笑顔が心の支えです。本当にありがとう。

 北三陸のアイドルの君たちへ。
 ふるさとは復興の途中です。
 君たちのできる範囲で良いので、これからも応援よろしく願います。
 それでは君たちの笑顔に感謝し、心から高校卒業おめでとう。

 三陸鉄道 久慈駅

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森由里佳 16年3月12日放送

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卒業② 3月と通学路

北海道にある、JR石北本線の旧白滝駅は、
1日わずか4本の列車しか停まらない無人駅だ。

今月、駅としての役目を終えることになっている。

利用人数のすくなさから、
何度ももちあがっていた廃止の話。

これまで廃止にならずにいたのには、
地域住民の願いがあった。

「3月までは、どうかこの駅を廃止にしないでほしい。」

理由は、たったひとりの乗客だ。
毎朝ホームに姿を見せる、18歳の女の子。

彼女はこの春、列車で通いつづけた高校を卒業する。

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森由里佳 16年2月14日放送

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バレンタインデー④ 愛を歌う人

ナット・キング・コール。
たとえその名を知らずとも、
彼の遺したヒット曲、
L-O-V-Eを知らない人はいないだろう。

彼は、世界中にこの歌がとどくことを願って、
英語の他に、5か国語もの訳を歌いこなした。
そして、その幸運な5つの言葉の中には、
うれしいことに、日本語も含まれている。

 “L”と書いたらLook at me
 “O”とつづけてO.K.
 “V”はやさしい文字Very good
 “E”と結べば愛の字L・O・V・E

この歌に背中を押された恋は、世界でいくつあるのだろう。

今日は愛を伝える日。

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森由里佳 16年2月14日放送

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バレンタインデー⑤愛を描く人

たった3本の映画を撮って、
引退してしまった映画監督がいた。

リチャード・カーティス。

「ノッティングヒルの恋人」や、
「ブリジットジョーンズの日記」の脚本家としても活躍し、
ラブコメディの帝王という異名を持つ。
初監督作品が「ラブ・アクチュアリー」と聞けば、
彼の映画監督としての手腕は想像にかたくないだろう。

そんな彼が引退を決めた理由は、実に彼らしいものだった。

 監督という仕事は、一つの場所にじっとしてはいられない。
 結果、長い間、家族と離れなくてはならなかった。
 そんな時間の使い方は、もうしたくない。
 大切な時間を、愛すべき家族や友人と満足のいくまで過ごしたいんだ。

愛を描ける人は、愛をたいせつにできる人。

今日は、愛を伝える日。

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森由里佳 16年2月14日放送

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バレンタインデー⑥ 愛を書く人

「愛している。」
なんて、あまい言葉は舌に合わない。
明治の日本に、そんな男がいた。

彼が妻と結婚して、4年ほど経ったころ。
男は、英語教育の研究のため、国から留学を命じられる。
行き先はイギリス。
遠く離れた異国の地での2年間、
さすがの日本男児も、妻にあてた手紙には本音をつづった。

 おれの様な不人情なものでも、頻り(しきり)にお前が恋しい。
 これだけは奇特と云って褒めてもらわなければならぬ。

愛という言葉を使わずに愛を伝えたその男の名前は、夏目漱石。

今日は、愛を伝える日。

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森由里佳 16年1月17日放送

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夢と仕事 男の夢と仕事

My dream is 3D.

映画界で、そう公言してきた男がいる。

スタートレック、リトルマーメイド、美女と野獣、ライオンキングと
映画史にのこる名作を支えてきたプロデューサー、
ジェフリー・カッツェンバーグだ。

多くの功績をのこした彼は、
独立して映画スタジオを立ち上げるが、
自分の会社を「テクノロジー・カンパニーだ」と言い切った。
夢である、真の3Dを実現するためには、技術開発が重要だからだ。

「実写で撮影できないようなシーンは作成しない」をモットーに、
アカデミー賞受賞作品まで誕生させ、
スタジオはいまや3DCG映画の巨頭となった。

誰もが知るそのスタジオの名は、
Dream Works。
彼の夢は、着実に前へと進んでいる。

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