蛭田瑞穂

佐藤日登美 18年5月13日放送

180513-07

ひらめき H.Jハインツ

あのケチャップ会社の生みの親、H.Jハインツ。
1896年のある日、ハインツはニューヨークの電車のなかで
自社の広告をどうしたものかと考えていた。
車内に目をやると、ある靴会社の「21のスタイルの靴」という広告。
ハインツ社の商品にも当てはめてみたらどうだろうとひらめき、
その足ですぐさま印刷屋に駆け込んだ。
そのとき、なぜか「57」という数字が頭から離れず、
一週間後、「57 varieties」というコピーとともにハインツ社の広告が街中を飾った。

100年以上経った今でも、「57 varieties」のフレーズは健在。
実は、ケチャップボトルにも載っているので確認してみては。

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佐藤日登美 18年5月13日放送

180513-08

ひらめき 加藤和彦

映画『この世界の片隅に』のオープニング曲として
改めて注目が集まった、『悲しくてやりきれない』。
ザ・フォーク・クルセダーズの2枚目のシングルとして発売されたこの曲には、
ちょっとした逸話がある。

当初リリース予定だった『インダス河』が発売自粛になったため、
急遽新曲を書くようにと言われたメンバーの一人、加藤和彦。

部屋に閉じ込められ、ギターだけ渡され、
ああもうどうしようもない、となったとき、
ふと『インダス河』のメロディーを譜面に書き、音符を逆に辿ってみた。
そのうちにモチーフが思いつき、10分ほどで曲ができたという。

ひらめきは、物事を逆から見ることで生まれることがある。
…あと、追い込まれることでも。

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森由里佳 18年4月15日放送

180415-01

壁を越える マイクの壁、自分という壁

♪This is me

ミュージカル映画“the Greatest Showman”で
顔中を髭で覆われた女性レティを演じ、
一躍注目の的になった女優キアラ・セトル。
彼女の歌う“This is me”は作品を象徴する名曲だ。

練習中、生の声で勝負することを怖がり
マイクから離れられないキアラに、
監督は言い続けたという。

“堂々とありのままでいようという歌なんだから、
 マイクの一歩前に出ておいで”

すると、どうだ。

スタジオの空気が変わった。
キアラが変えた。
自由に放たれた彼女の歌声が、
メンバーの歌にさえ力を与えたのだ。

メンバー全員で最後の一音を歌いあげたその瞬間、
スタジオのまん中には、紛れもなくありのままの
キアラ・セトルがそこにいた。

“This is me!”

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佐藤日登美 18年4月15日放送

180415-02

壁を越える 人生を変えた壁

旧東ドイツに住む物理学者の女性は、
木曜日をサウナの日と決めていた。
その木曜もサウナに行き、友人とビールを楽しんだあとバーを出ると、
街を分断する壁がたたき割られていた。

1989年11月9日、木曜日。
歴史的な一日となった、ベルリンの壁崩壊の日だった。

市民の手で壊されていく壁。
歓喜に湧き立つ人々。
「今こそ物事を変えることができる、何かをすることができる」と
彼女は思った。

その直感に従い、彼女は勤めていた科学アカデミーをやめ、
政治の世界へと進んだ。
そして、ドイツ初の女性首相となった。
彼女の名前は、アンゲラ・メルケル。

壁の崩壊が、ドイツの未来を築いた。

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佐藤日登美 18年4月15日放送

180415-03
Gary Goodenough
壁を越える 「国境の壁」を越える

言葉の壁。
人種の壁。
性別の壁。

さまざまな「壁」に打ち勝とうとするいま。
「生物の壁」を越えた愛を描いた映画が、今年のアカデミー賞に輝いた。
『シェイプ・オブ・ウォーター』。
声が出せない女性と半魚人の恋の物語。

監督のギレルモ・デル・トロの授賞式のスピーチは、
「私は移民です。多くのみなさんのように」という言葉から始まった。

 25年間、自分の国・メキシコにいました。
 自分の一部はそこにあり、一部はヨーロッパに、一部は他の国にあります。
 この業界は、そういった国境を越えて仕事すべきだと思うのです。

国境に壁をつくろうとしている大統領に向けられた言葉だ、という人もいる。

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佐藤日登美 18年4月15日放送

180415-04

壁を越える 秋元康の壁

壁に直面したら、たいていの人はそこで立ち止まって
うんうん悩んでしまう。

でも、作詞家・秋元康は違う。

 小説の執筆に行き詰まったとしたら、
 その小説は放り投げて、新しいものを書き始める。
 あるいは、全然違う仕事にとりかかる。

そうやって、秋元康は立ちはだかる壁を越えるのではなく、迂回してきた。
彼はこう言う。

 逃げてもいいんですよ。
 そのときに、人生において大事なのは「戻ってくる力」なのです。

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蛭田瑞穂 18年4月15日放送

180415-05
dick thomas johnson
壁を越える ヒュー・ジャックマン

ミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』。
撮影前、最後の練習の前日、
主演のヒュー・ジャックマンは鼻の皮膚癌の治療のため、
80針を縫う手術を行なった。
医者からは歌うことを固く禁じられた。

翌日、練習が始まる前に「今日は歌えない」と
メンバーに宣言したヒュー・ジャックマン。
しかし最後の曲で冒頭部分を歌ったところ、
気がつくと最後まで熱唱していた。

 歌いだしたらやめられなくなってしまったんだ。
 その後縫い直してもらったんだけど、
 医者からはすごく怒られたよ。

主演俳優の映画にかける思いが
まちがいなく映画制作の推進力になった。

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蛭田瑞穂 18年4月15日放送

180415-06
Photo by Mike Benna on Unsplash
壁を越える 村上春樹

村上春樹のエッセイ「ランゲルハンス島の午後」は、
中学一年の春、生物の最初の授業で教科書を忘れ、
自宅まで取りに帰された出来事が綴られている。

教科書を持って学校に戻る途中、
公園で一息つこうとした村上少年は春の匂いに誘われて、
そのまま芝生に寝転んでしまう。

 頭の下に敷いた生物の教科書からも春の匂いがした。(中略)
 まるで春の渦の中心に呑みこまれたような四月の昼下がりに、
 もう一度走って生物の教室に戻ることなんてできやしない。
 1961年の春の温かい闇の中で、僕はそっと手をのばして
 ランゲルハンス島の岸辺に触れた。

人は時にはさぼってもいいんだよ。
村上春樹がそう言っている気がする。

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蛭田瑞穂 18年4月15日放送

180415-07
tokyoform
壁を越える 山口瞳

今日で4月もちょうど半分。
新社会人の中には壁にぶつかっている人がいるかもしれません。

元サントリーの社員で、直木賞作家でもある
山口瞳さんはかつて新社会人に向けて
こんなメッセージを寄せています。

 失敗したらどうするか。
 クヨクヨせずに、朗らかに、キッパリと、
 あやまって廻りたまえ。
 書く申す僕だって、何度かそれをやってきた。
 (陰の声。いまでもやっているよ)
 諸君!この人生大変なんだ。

人生の大先輩の言葉が背中を押してくれる。

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蛭田瑞穂 18年4月15日放送

180415-08
ArtBrom
壁を越える イチロー

2017年、アメリカのCBSテレビ系のローカル局RHV11が
スポーツ界で人種の壁を破った15人を発表し、
15番目にイチローの名を挙げた。

その理由として同局はこうコメントしている。

「日本人選手でイチローほど成功した選手はいない。
 彼は年間最多安打記録を更新し、10年連続で200安打を記録した。
 日本人選手がメジャーリーグで活躍できないということを
 イチローは反証した」

そのイチローは壁についてこんな言葉を残している。

 壁というのは、できる人にしかやってこない。
 超えられる可能性がある人にしかやってこない。
 だから、壁がある時はチャンスだと思っている。

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