蛭田瑞穂

森由里佳 15年11月22日放送

151122-05
alex_ford
愛のかたち 音楽にこめた愛

天才、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。

ピアノソナタ14番の通称、「月光」は、
詩人ルードヴィヒ・レルシュターブから寄せられた次の賛辞に由来する。

「湖の月光の波に揺らぐ小舟のようだ」

第一楽章のロマンティックさとは裏腹に、
第三楽章の昂ぶる旋律は、あふれる想いの独白にもとれる。

それもそのはず。
この曲は、当時想いを寄せていた女性に捧げたものだった。
相手は、伯爵令嬢。叶うことのない身分違いの恋だった。

天才の恋は、消えゆく月光のように、
打ち明けることなく静かに幕を閉じたのだろう。

数ある書簡集の中に、
彼女に宛てた手紙は、1通も見つかっていない。

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森由里佳 15年11月22日放送

151122-06
naquib fadzil
愛のかたち 意地悪にこめた愛

鬼才、セルジュ・ゲンズブール。
浮名の多い彼も、女優ジェーン・バーキンとは長く連れ添った。

「彼女のどこが好きか?」
と質問された時、ゲンズブールはこう答えたという。

「彼女の心の中にいる俺」

多くの美女とのスキャンダルをもつ男の言葉は、
自信に満ち、傲慢、冷酷にすら聞こえたかもしれない。

だが、ゲンズブールの死後、
ジェーン・バーキンはこのように語っている。

 彼の、私に対する悪意だと思っていたことは全部、
 感受性の強い、恐ろしくロマンチックな人間の自己防衛だったの。
 彼は自分のことを「偽の意地悪」と言っていたけど、本当にそうだわ。

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飯國なつき 15年11月22日放送

151122-07

愛のかたち それぞれの愛

作曲家エドワード・ウィリアム・エルガーは
29歳のとき、ピアノの弟子を取った。

キャロライン・アリス・ロバーツ。

その後、エルガーの妻となり、仕事のマネージャーとなり、
心の支えとなり、音楽には的確な批評を与え続けたアリス。
彼女の日記にはこう残されている。

「天才の面倒を見るというのは、
 いかなる女性にとっても
 生涯の仕事として十分なものです。」

彼女への贈り物として、
エルガーは、ヴァイオリンとピアノのための小品
『愛の挨拶』を捧げた。

2人それぞれが、心をこめて形作った
愛のかたちがそこにあった。

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飯國なつき 15年11月22日放送

151122-08
cytech
愛のかたち 愛は転機

やり手の女社長として名をはせた、
株式会社DeNAの創業者・南場智子。

2011年4月、突然の社長退任宣言に世間はどよめく。

きっかけは、夫のがん告知だった。
医者の告知を聞いた瞬間、
「(自分には)一生こないだろうと思っていた心境の変化」
が起きた。

 これまでの自分の人生は、全部このときのためにあったんじゃないか。

そんなふうに思い、ためらいもなく社長を辞任し、
夫の看護にあたった。
闘病中の2年間を振り返って、彼女はこう語った。

「家庭より仕事が大事なんて人はめったにいなくて、
 みんな家族が一番大事なんだということが、
 自分自身が家族優先になってみて、心底わかりました。」

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蛭田瑞穂 15年10月25日放送

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音楽と人 バッハと神

モーツァルトは生活のために曲を書いた。
天才モーツァルトは音楽を愛好家する貴族の注文に応じて
すらすらとピアノ・ソナタを作曲した。

ベートーヴェンは野心のために曲を書いた。
自分の発表したピアノ・ソナタが
世間でどのような反響を起こすか。
それがつねにベートーヴェンの関心事だった。

ヨハン・ゼバスティアン・バッハは神のために曲を書いた。
バッハの音楽においては神が究極の聴き手であり、
神に音楽を捧げることで、バッハは人間としての完成をめざした。

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蛭田瑞穂 15年10月25日放送

151025-02

音楽と人 バッハとコーヒー

18世紀の初頭、音楽は教会で演奏されるものだった。
その時代にバッハは街のコーヒーハウスで演奏会を開き、
音楽の裾野を広げた。

ただ、当時コーヒーハウスは女人禁制。
女性はコーヒーを飲むべきではないという風潮があった。
そんな風潮に反発して詩人のピカンテは
コーヒーはキスより素敵と訴える娘を主人公にした
『おしゃべりはやめて、お静かに』という戯曲を書き、
のちにバッハが曲をつけた。

『コーヒー・カンタータ』とも呼ばれるこの曲、
秋の夜に温かいコーヒーを飲みながら聴いてみたい。

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蛭田瑞穂 15年10月25日放送

151025-03

音楽と人 バッハと国王

1745年、オーストリア王位継承戦争が集結すると、
プロイセン国王フリードリヒは宮廷に62歳のバッハを招いた。

バッハが到着すると国王は
「皆の者、老バッハが参ったぞ」と叫び、大いに歓迎し、
ピアノの演奏をバッハに依頼した。

国王の求めに応じて、バッハはみごとな即興演奏を披露した。
素晴らしい演奏に、その場にいる誰もが息を呑んだ。

のちにバッハは演奏を楽譜に起こし、
あらたに書き下ろした曲とともに国王に贈った。

バッハ最晩年の傑作『音楽の捧げもの』は
こうして出来上がった。

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森由里佳 15年10月25日放送

151025-04

音楽と人 感情と音楽:レナード・バーンスタイン

 何よりもすばらしいのは、
 音楽が伝えることのできる感情の種類は無限だということである。
 言葉で表現できない深い感情までも、音楽は明確に示してくれる。

 
そう語ったのは、ピアニスト、指揮者として
世界に名を知られるレナード・バーンスタイン。
 
このことは、彼が手がけたミュージカル、
つまり、音楽によって物語を紡ぐ作品を見るとよくわかる。
 
たとえば、ウエストサイドストーリー。
プロローグでは若者グループの対立が音楽にのせて描かれるが、
彼らの感情を表現する言葉は、ゼロといってもいいほどだ。

言葉は、人だけが操ることができる。
音楽もまた然り、である。

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森由里佳 15年10月25日放送

151025-05
GUiBOY
音楽と人 体験と音楽:高木正勝

『おおかみこどもの雨と雪』、『バケモノの子』など
多くのヒット映画を音楽で支えるアーティスト、高木正勝。
 
彼は、国内外にかかわらず、自然に近いところで、
昔ながらの生活をする人たちが奏でる音楽に魅了されるという。
 
しかし、その音楽を真似することはできても、
同じ強さの表現に達することは、できないのだそうだ。
 
 元になっている体験がないから出てこないんです。
 山に柴刈りにいったり、火を熾したり、畑をしたり、祭りをしたり。
 自分の身体で体験して初めて「こういうことだったのか」と
 分かるものだらけなんです。

 
仕事の依頼が引きも切らない彼はいま、
兵庫県と京都府の境にある小さな村に住んでいる。

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森由里佳 15年10月25日放送

151025-06
lee.chihwei
音楽と人 人生と音楽:久石譲

久石譲。
その名は多くの音楽とともに日本人の心の中にある。

世界中からのオファーで多忙な彼は、
意外にも、その日常はルーティンワークに占められるという。

 延々とルーティンワークを繰り返していれば、
 苦しくなって、逃げたくなるときはありますよ。
 それでも音楽を続けるのは、僕にとって「音楽」というのは、
 イコール「生きること」だからです。

 
人生が、一日一日を重ねていくように、
音楽もまた、一音一音を重ねて流れゆく。
 
楽譜通りに演奏しても全く同じ音楽にはならないように、
「おなじことを繰り返すだけの毎日」というのも、
本当はないのかもしれない。

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