音楽と人 小澤征爾とタクト
小澤征爾。
世界を代表する指揮者である彼が、
タクトを使っていないことにお気づきだろうか。
荒々しい曲では、こぶしを突き上げ、
ゆるやかな旋律には、やさしくほぐすような手つきで、指揮をする。
きっかけは、あるウイーンでの演奏会。
タクトを自宅に忘れ、急遽用意してもらったタクトもしっくりこず、
手だけで指揮をすることにした。
ところが、オーケストラの団員はだれも、そのことを気づかない。
そこで彼は思い切ってタクトを手放した。
小澤は言う。
そこの鉛筆、あなた持ってごらん。力がいるでしょう?
持っていたら、いろいろと考えなきゃいけない。
落としちゃいけないとか、飛んでいったら大変だとか。
世界の音楽を操るその手つきは、いつだって柔らかく伸びやかだ。