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太陽③ 吉野弘
詩人吉野弘の作品、「夕焼け」。
夕暮れ時の電車の中で、
心やさしい娘が、お年寄りに席を譲る。
ありがとうの言葉もなくそそくさと座るお年寄り。
そんなことが三度も繰り返され、
辛い気持ちにおそわれたのか、やりきれなくなったのか
とうとう娘は、うつむいたまま、席を立たなくなった。
詩の最後は、こう結ばれている。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇を噛んで
つらい気持で
美しい夕焼けも見ないで。
吉野弘のことばは、誰もが経験したことのある、
けれど輪郭のぼやけた気持ちを形にしてみせる。
胸が痛くなるほど、はっきりと。