蛭田瑞穂

森由里佳 14年12月7日放送

141207-05

贈り物⑤ 井上ひさし

井上ひさしの戯曲は、
社会や人間への不満・疑問を投げかける中で、
必ず、笑いを含んでいる。
その理由の一つに、こんなことがある。

 人間の愚かさが誰かに注意されて改まるならば、
 悲しみや怒りではなく、
 笑いによって注意を下されるべきではないだろうか。

耳を塞がれがちな意見や不満を、
笑いという「贈り物」に変える。
そうすれば、心ない観客が見ても、
それはきちんと楽しまれる。

一方で、心ある観客には宿題を残すのが井上戯曲。
それは、「あなたはどうだ?」という問いだ。
その問いが放つ心の波紋こそが、
井上からの最高の贈り物だといえるだろう。

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森由里佳 14年12月7日放送

141207-06
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贈り物⑥ わすれられないおくりもの

 アナグマは、死ぬことを恐れていません。
 死んで、からだがなくなっても、
 心は残ることを、知っていたからです。

スーザン・バーレイの絵本
「わすれられないおくりもの」の一節だ。

ゆっくりと眠る様に亡くなったアナグマは、
友人たちに、宝物となるような知恵や工夫を遺していた。
それは、彼らにとって、
大好きなアナグマからの「わすれられないおくりもの」だった。

しかし、アナグマが遺したいちばんの「わすれられないおくりもの」は、
「死んで、からだがなくなっても、心は残る。」
という、幼い読者とその親へのメッセージかもしれない。

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蛭田瑞穂 14年12月7日放送

141207-07

贈り物⑦ ローマ教皇フランシスコ

第266代ローマ教皇フランシスコは
今年の世界コミュニケーションデイに寄せて、
こんなメッセージを発表した。

 インターネットは家族の団結や
 人間の尊い人生を保証します。
 そして、異なる文化、伝統、言語を持つ人々が
 互いに理解することのできる大きな可能性を持っています。
 それは神様からの素晴らしい贈り物なのです。

クリスマスシーズンは一年でいちばん人との絆を感じる季節。
インターネットを通じて世界中で誰かが誰かを想っている。

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蛭田瑞穂 14年12月7日放送

141207-08

贈り物⑧ シャウプ司令官

1955年、アメリカの百貨店シアーズは
「サンタクロースに電話をしよう」という広告を配布し、
サンタへの直通ダイヤルを案内した。

ところが、その番号に印刷ミスがあった。
子供たちが電話をかけると、
中央防衛航空司令部のシャウプ司令官につながってしまうのだ。

小さな子どもからの間違い電話に、
司令官は腹をたてるどころか
「レーダーで調べた結果、サンタクロースは
北極から南極へ移動中です」と答えた。

以来、防衛司令部は毎年クリスマスに
サンタクロースを追跡し、
その足跡を公開している。

シャウプ司令官の機転を利かせた対応は、
子どもたちへの予想外の贈り物となった。

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飯國なつき 14年11月9日放送

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お風呂① 杉滝

吉田松陰の母、杉滝。
嫁いだ先は、極貧の武家だったが、
そんな中でも、彼女は「毎日お風呂に入る」と宣言した。

義理の父から猛反対を受けながらも、

「貧しさのあまり心まで貧しくなってしまっては
 どうしようもない。
 温かい湯につかることで、心まで温もり、
 翌日も頑張る意欲が生まれるはずだ」

と言いはり、お風呂に入り続けた。

滝は、子供たちを風呂に入れるのも大好きで、
吉田松陰が安政の大獄で処刑される前、
一日だけ帰宅を許された際にも、
松陰を風呂に入れ、無事の帰りを祈ったという。

風呂から伝わる母の愛は、
松陰の最後の一日を、きっと惜しみなく温めていた。

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飯國なつき 14年11月9日放送

141109-02
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お風呂② 壇ふみ

女優の壇ふみは、
「風呂がないと、心が荒廃する」という。

彼女がオーストラリアに行った、ある夜のこと。
芯まで冷え切り、お湯につかりたいのに、
高さ二十センチのシャワータブしかない。

そこで彼女は、その二十センチにお湯をためて、浸かった。
刺身に醤油をつけるようにして、全身にお湯をなすりつけた。

湯に浸かる喜びを知らなければ、
そんな苦労も知らずに済んだろうに。

それでも壇ふみは、風呂の幸せについて、こう語る。

 背をそらす。腕を伸ばす。
「ああ、いい気持ち」と、お腹の底から言ってみる。
今日の凝りが疲れが、ゆるゆるとお湯の中にとけてゆく。

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飯國なつき 14年11月9日放送

141109-03
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お風呂③ 絵本「おふろだいすき」

お風呂嫌いの小さな我が子に、毎晩、ひと苦労。
そんなお父さんお母さんへ、おすすめしたいのが、
絵本「おふろだいすき」だ。

おふろが大好きな主人公の男の子、まこちゃんがおふろに入っていると、
突然、巨大なカメ、双子のペンギン、オットセイ…
いろんな動物がお風呂の中から登場する。

絵本から湯気が立ちのぼるような、
林明子さんのやわらかいイラストとともに、描きだされる空想の世界。
摩訶不思議な物語はどんどん広がっていくが、
最後は、あたたかいお母さんのタオルの中へ到着する。

子供はもちろん、大人だって、
お風呂に入りたくなる一冊だ。

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森由里佳 14年11月9日放送

141109-04

風呂④ 日本初の女性銭湯絵師

日本に3人しかいない銭湯絵師の中で、
唯一の女性、田中みずき。

ある銭湯で富士山の絵を描き終わった彼女は、
オーナーから絵にサインするよう促される。

しかし、彼女は躊躇した。

「描きたいから描くのではなく、
 銭湯の個性につながる空間を作るお手伝いとして描いています。
 最終的には見ている人の絵になってほしいので、
 自分の絵だとは思っていません。」

個性を出すのではなく、
求められるものに応えたいという職人魂。

日本人のこころを癒しているのは、
熱い湯けむりだけではないようだ。

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森由里佳 14年11月9日放送

141109-05
Top Tripster
風呂⑤ 女将のご褒美

新潟の温泉旅館で育ち、
異国の島で温泉宿を経営する女将、荻野多賀子。

ニュージーランドのマルイアスプリングスという温泉で、
24年間もの間、客人をもてなしている。

日本とは環境も道具も異なるため、
ちょっとした作業も戦いだ。

しかし、荻野さんに言わせれば、それが
「生きている!って感じ」なのだという。

そんな彼女の楽しみの一つが、
露天風呂の掃除の後、お湯の確認のために入浴すること。
お客様がいないときだけ楽しめる、贅沢なご褒美だ。

異国の地であっても、戦う日本人を癒すのは、
やっぱり、いい湯なのだ。

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森由里佳 14年11月9日放送

141109-06

風呂⑥ 自由と平等と銭湯と

慶應義塾の創設者である福沢諭吉。
「学問ノススメ」で、自由と平等を説いたことは有名だ。

しかし、
慶應義塾の向かい、芝の三田通りで、
銭湯を経営していたことはあまり知られていない。

福澤は、著書「私権論」でこんなことを書いている。

 銭湯に入る者は、氏族であろうが、平民であろうが、
 みんな等しく湯銭を払い、身辺に一物なく丸裸である。
 銭湯の入浴には、なんら上下の区別なく平等であり、
 かってにはいっても、出ても自由である。

総理大臣も赤ん坊も、
風呂に入ってしまえばみな同じ人間。

当時の日本に必要だったのは、
政治でも外交でもなく、
裸の付き合いだったのかもしれない。

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