蛭田組・佐藤日登美

佐藤日登美 19年4月14日放送


Photo by Kate Krivanec on Unsplash
生まれるとき 二人の力

鼻からスイカが出る、とも例えられる出産の痛み。
お母さんが頑張っているとき、
お腹のなかの赤ちゃんも
一生懸命外の世界に出ようと格闘している。

狭い産道をうまく抜けられるよう、
赤ちゃんはあごをぐっと胸に近づけ、頭や体を回旋させる。
くるくる回る力に、陣痛という子宮が収縮する力が加わって
少しずつ、少しずつ、赤ちゃんはお腹から出てくるのだ。

お母さんと子ども、二人で息を合わせて。
ぴったり重なったとき、この世界に新しい命が生まれる。

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佐藤日登美 19年3月10日放送


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浅草、神谷バー

浅草一丁目一番地一号。
この特等席に佇むのは、明治13年に創業した日本初のバー、神谷バー。
ブランデーベースのデンキブランが売りだが、
そのレトロな建物も名物の一つだ。
アーチがあしらわれた丸い窓を持つ神谷ビルは、
東京大空襲にも耐え抜いたという。

周りが焼け野原に変わり果てたなか、奇跡的に
神谷ビルと松屋デパートだけが破壊されず残った。

酒が飲める場所は変わらずそこにある。
その姿は、戦後の人々の希望になった。

今日3月10日は、74年前に東京大空襲があった日。

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佐藤日登美 19年3月10日放送



守り抜いた写真

戦時中の記録写真を撮るようにと、
警視総監に直々に命を受けた男がいた。
警視庁に勤める、石川光陽。

ある夜、なぜだか空襲の予感がした石川は警視庁に泊まりこんだ。
翌日未明、町中に警報が鳴り響く。
東京大空襲の始まりだった。

彼のライカのなかには、焼け焦げた遺体や
煙でくすぶる東京の街が収められている。
戦後、GHQから空襲の様子を撮影したネガの提出を求められたが、
石川は自宅の庭に埋めて隠し通した。
守り抜いた写真は、戦争を語る貴重な資料となっている。

今日3月10日は、74年前に東京大空襲があった日。

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佐藤日登美 19年2月17日放送



スープ チキンヌードルスープ

風邪をひいたときの定番料理。
日本ではおかゆやうどんを思い浮かべるが、
アメリカで外せないのはチキンヌードルスープ。

コンソメスープで鶏肉、ニンジン、玉ねぎ、セロリをやわらかく煮込み、
そこにショートパスタを加える。
タイムやセージなど、家によってはハーブも一緒に煮込まれる。

具沢山のチキンヌードルスープは栄養満点で、
なによりもからだがほっと温まる。
風邪のときにかぎらず、ちょっと元気がないときに口にする人も多い。

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佐藤日登美 19年2月17日放送


City Foodsters
スープ クラムチャウダー

シアトルに、Pike Place Chowderという
行列の絶えないクラムチャウダーの店がある。

オープン当初、クラムチャウダーは看板メニューでもなんでもなく、
金曜日に出される「本日のスープ」のひとつだった。
数人いたシェフが「自分のレシピこそが最高のもの!」と言って、
毎週代わるがわる自慢のクラムチャウダーを振る舞った。

やがて、それぞれのレシピのいいところがミックスされ、
新たなハーブや具材が加わり、肉厚のアサリがほうり込まれ、
唯一無二のクリーミーな一杯ができあがった。

いまでは、シアトルの寒空の下、
世界中の人が暖かいクラムチャウダーを求めて足を運ぶ。

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佐藤日登美 19年1月13日放送

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酒の肴 ロングバーのピーナッツ

シンガポールの老舗高級ホテル、ラッフルズ・ホテル。
このホテルのロングバーには二つの名物がある。

一つは、ロングバーで生まれたカクテル、シンガポールスリング。
マラッカ海峡に沈む美しい夕日を思わせるジンベースの一杯だ。

もう一つは、シンガポールスリングと合わせてつまむピーナッツ。
麻袋いっぱいに入ったピーナッツがすべての席に置かれ、
お客は無料で食べることができる。
ここでの流儀は、ピーナッツの殻をそのまま床に捨ててしまうこと。

ポイ捨て厳禁のシンガポールのなかで、
ここだけはゴミを放ることが許される。

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佐藤日登美 19年1月13日放送

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酒の肴 からすみのルーツ

日本三大珍味の一つ、からすみ。
そのルーツは紀元前の古代ギリシャやエジプトに遡る。
冷蔵保存ができなかった当時、
初夏にとれた魚の卵を保存させるために生み出された。
やがてアラブ人によって地中海沿岸へと伝えられ、
中国を経て日本にまで渡ってきた。

塩辛くねっとりした味わいが飲兵衛にはたまらない酒の肴。
薄く切ったり、大根と合わせたり、軽く炙ったり。

遥か昔の人々のおかげで、
日本人はからすみとの「ちょっと一杯」が楽しめる。

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佐藤日登美 18年12月16日放送

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一枚の、絵画

覆面芸術家、バンクシー。
社会風刺的なアートを繰り広げる彼の作品が、
サザビーズのオークションに出品された。

風に飛ばされる赤い風船に手を伸ばす少女が描かれた、「Girl with Balloon」。
注目を集めたその作品は100万ポンドで落札された。

しかし、その直後。
落札を知らせる木づちが響き渡った瞬間、
「Girl with Balloon」は額縁から滑り出るようにして切り刻まれた。
突然の出来事に会場は凍りつく。

実はこの仕掛け、何年も前からバンクシー本人が絵画に仕込んでいたという。
落札が決まった瞬間、遠隔操作でシュレッダーを作動させたのだ。

「芸術なんて所詮、一枚の紙だろう?」
とバンクシーは言っているのかもしれない。

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佐藤日登美 18年12月16日放送

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一枚の、包装紙

一枚の包装紙にも、物語がある。
老舗百貨店、三越のオリジナル包装紙「華ひらく」もそのひとつ。

画家・猪熊弦一郎が千葉の犬吠埼海岸を散策しているとき、
波に打たれて角がとれた丸い石を見て
「波にも負けず頑固で強く」をテーマにデザインしようと思いつき描かれた。
その作品を受け取りに行ったのが、
当時三越に勤めていた漫画家・やなせたかし。

やなせがローマ字で「mitsukoshi」のロゴを書き添え、包装紙は完成された。
日本の百貨店では初めての、オリジナルのラッピングペーパー。
今日も、誰かへの贈り物が包まれている。

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佐藤日登美 18年11月18日放送

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AIと絵画

2018年10月25日。
歴史あるニューヨークのオークションで、
AIが描いた絵画が落札された。
その価格、なんと43万2500ドル。
日本円にして4,800万円にもなる。

描かれているのは、黒い服を身にまとった紳士。
彼の塗りつぶされた顔は、描きかけのようにも見える。

この絵を手がけたのはフランスのアート集団、Obvious。
14世紀から20世紀に描かれた肖像画1万5000点を読み込んだ結果、
生まれた作品だという。

絵画の右下には、
アーティストの署名の代わりに数式が刻まれている。

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