料理する人 森茉莉
真のお嬢様、森茉莉。
16歳まで父の膝の上で育ち、
お嫁に行っても
召使いにごはんを口元まで運ばせた。
中年になり貧乏になったときも、
彼女は決して「贅沢」を忘れなかった。
食にまつわる彼女のエッセイには、
こんな描写がある。
マヨネエズの壜を出し、
鎌倉ハムを出し、
牛酪(バタ)を出し、
片兎で卵(かたうでたまご)を出し、
薔薇色がかった朱色の玲瑯珠(れいろうたま)の如きトマト
(les tomates vermeilles)を二つ出し…
ただのサンドイッチだというのに、
こだわりが感じられ、実においしそう。
彼女にとって
料理をおいしくする一番のスパイスは、
高級な食材でも調味料でもなく、
「贅沢な精神」だった。