中村組・三國菜恵

三國菜恵 13年2月23日放送


chao
登場人物たち 森進一『襟裳岬』

森進一の代表曲『襟裳岬』。

この曲の、名もなき主人公の心情に、
当時25歳の森は、自分の姿を重ね、はげまされていたという。
それは、この一節。

日々の暮らしはいやでも
やってくるけど
静かに笑ってしまおう

つらい時期をむかえていた森にとって、
襟裳岬の主人公はまさに自分だった。

topへ

三國菜恵 13年2月23日放送



登場人物たち 王様とこども(谷川俊太郎『黒い王様』)

谷川俊太郎作『黒い王様』。
そこには境遇の異なる2人の人物が登場する。

ひとりは、裕福な王様。
もうひとりは、貧しいこども。

谷川は、彼らの異なるかなしみを
こんなふうに描いてみせた。

おなかをすかせたこどもは
おなかがすいているのでかなしかった
おなかがいっぱいのおうさまは
おなかがいっぱいなのでかなしかった

 ふたりともめになみだをうかべて
 おなじひとつのほしのうえで

かなしみの理由は人それぞれで、
何が不幸かなんて、くらべられないのだろう。

topへ

三國菜恵 12年10月21日放送



おいしいはなし / 狐野扶実子(この ふみこ)

その料理は「社交界のステータス」と呼ばれる
出張料理人、狐野扶実子。
彼女の最初の料理の先生は、
「じじ」と呼んでいた、祖父の弟にあたる人だった。

「じじ」はお酒のおつまみをよくつくった。
その過程が、幼い扶実子の目にはまるで魔法のように映っていたという。

たとえば、いかのおなかに手をつっこむと、
足と一緒にするすると内臓まで抜けて来る。
その足をざくざくと切り、塩をふりかけ、内臓とまぜ合わせると、
不思議な味わいの塩辛ができあがる。

彼女は語る。
そこには、どんな絵本にも描かれていない
一大スペクタクルがあったのだ、と。

topへ

三國菜恵 12年10月21日放送



おいしいはなし / 向田邦子

子どものころは外食がごちそうだった。
けれど、大人になってみると、
実家の母の味が恋しくなるもの。

作家・向田邦子もそうだった。
コマ切れ肉の入った、うどん粉で固めたような母のカレー。
「いままでで一番美味しかったもの」を思いだすときは
いつも、このカレーが浮かぶと言っていた。

けれど、向田は
大人になってから「あのときのカレー、つくって」と
母にねだるようなことはしなかった。
そこには、こんな思いがあった。

 思い出はあまりムキになって確かめないほうがいい。
 何十年もかかって、懐かしさと期待で大きくふくらませた風船を、
 自分の手でパチンと割ってしまうのは勿体ないのではないか。

topへ

三國菜恵 12年10月21日放送



おいしいはなし / 祥見知生(しょうけん ともお)

鎌倉にひっそりとたたずむ
器のギャラリー「うつわ祥見(しょうけん)」。
その店主の、祥見知生は、
数ある器の中でも、めし茶碗のことをこよなく愛している。

 器とはせつないものである。
 食べる道具として、生きることを支えている。
 ごくありふれた人の生涯と同じように気高く、そして美しい。

topへ

三國菜恵 12年9月9日放送



自然と人  田口ランディ

作家・田口ランディ。
彼女が物書きになろうと思ったのは、
屋久島を訪れたのがきっかけだった。

それは、大自然の力に感動したから
という理由だけではない。
そこに暮らす人々の本当の苦労を知ったからだった。

都会に暮らしてきた田口に対し、
あるとき、現地の人がこんなことばをもらす。

「どうして俺たちだけが縄文人みたいな暮らしを強いられるんだ」

田口は、現地の人はあたりまえに自然を守っているのだと思っていた。
けれども、ちがったのだ。

その日以来、彼女は屋久島の人々の声を、血のにじむような努力の数々を、
メールマガジンにして発信しはじめた。
それは、彼女の物書きとしての第一歩であり、
自然保護のための具体的な一歩でもあった。

topへ

三國菜恵 12年9月9日放送



自然と人 岩谷美苗(いわたに みなえ)

ニュージーランドの先住民マオリ。
彼らにとって土地とは、
人間が所有するものではなく、
神々の承認によって使うことを許された場所だった。

マオリが大切にした土地の中でも
とくに聖地とあがめられた場所があった。

1887年。マオリのリーダーが、こともあろうか、
その聖なる土地を英国女王に譲り渡してしまう。

首長の名前は
ホロニク・テ・ヘウヘウ・トゥキノ四世。
ただし、と彼は厳しい条件を添えた。
その土地一帯を永久に、そのままの姿で保全すること。

このままでは入植者たちによる乱開発をくいとめることはできない。
神々から約束された場所を守る方法はないものか。
考えた末の決心だった。

土地の名は、トンガリロという。
1990年世界遺産登録。
神々の約束の地は、世界中の自然を愛する人の聖地となった。

topへ

三國菜恵 12年9月9日放送


Hiro.Y
自然と人 立松和平(たてまつ わへい)

作家・立松和平(たてまつ わへい)。
彼は晩年、生まれ故郷である栃木県・足尾銅山の森を再生させるために
木を植える活動にいそしんだ。

彼は、仲間達と
こんな言葉をスローガンに活動していたという。

 皆さんの心に木を植えましょう。
 地面に植えた木と、心の中に植えた木は、同じように育っていくんです。

topへ

三國菜恵 12年8月26日放送



夏の終わりに  鎌田敏夫(かまた としお)

関西弁で「そやさかい」というのを、
徳島弁では「ほなけんな」というのだそうだ。

徳島出身のシナリオライター
鎌田敏夫(かまたとしお)は、
こののんびりとした言い回しを聞くと、
故郷の夕なぎの景色を思い出すのだという。

 夏の夕方にそよとも風が吹かなくなる、あの一瞬。
 阿波弁を聞くと、ぼくは、いつも、そのときの空気を
 思い出してしまうのである。



夏の終わりに  青山七恵(あおやま ななえ)

「ひとり日和」などの作品で知られる
小説家・青山七恵(あおやまななえ)。

彼女はある夏、フランスに留学した。
そのときに、旅先から帰国後の自分へ手紙を送る、
というあそびをしてみた。

7月27日。
彼女は、手紙のなかで帰国後の自分にこう問いかけた。

 元気ですか?

それに対して、
8月31日の青山さんが書いたのは、こんなお返事。

 私はたぶん、少しだけ変わりました。
 学生時代からずっと長くしていた髪を切りました。
 少なくとも、髪の毛くらい、変えることはかんたんだと、
 よくわかりました。

夏のはじまりにはなかった気持ちが
夏の終わりには育っている。


きっちん
夏の終わりに 岡野廣美(おかの ひろみ)

東京・根津にある花屋
「花木屋」の店主、岡野廣美(おかのひろみ)。

彼女は職業柄もあってか、
匂いから季節を感じるのが得意なのだという。

十字路で沈丁花の香りに出くわせば、三月。
市場でバラの匂いがすれば、五月。
不忍池で蓮の匂いがあたり一面に漂えば、真夏。

そんな彼女に、都会で秋を感じる匂いを聞いてみた。

 空気が汚れていると、花つきが悪いと言われているキンモクセイも
 秋には香りのよいオレンジ色の花を咲かせます

キンモクセイが香るころは
衣替えも終わっているだろうか。

topへ

三國菜恵 12年7月15日放送



遊びの話 安田朗

1991年に社会現象を起こした格闘ゲーム、ストリートファイターⅡ。

彼らが唯一、暗黙のルールにしていたのは
キャラクターをつくっていく過程で
笑いが起きるかどうかということ。

信じられないほど手が伸びるキャラ。
見た目は人間なのに、なぜか緑色のキャラ。
スペイン人の設定なのに、使えるのは忍者の技。

などなど、
チームのみんなが「そんなのありか!」と笑ってしまった瞬間に
ゲームキャラとしてのOKを出していたというのだ。

開発メンバーの安田朗(やすだあきら)はこう語っている。

 デザイナーが思い入れたっぷりにキャラクターを作っても、
 すごいものが生まれるとは限らない。

topへ


login