「愛の手紙」山口瞳
直木賞作家・山口瞳が妻となる治子に出会ったのは19歳の時。
ある時、仲間内で治子の誕生日を祝う集まりがあった。
その夜、山口は治子に初めての手紙を書く。
・・・今、洋服を浴衣に取り変へます時、
貴女とブツケツコしたブドウの一粒がつぶれた儘で
おヘソの辺りから出て来たのですが、
その一粒のグチャグチャな果実を見て居りますと
今日の一日が偲ばれて・・・・・
治子と一緒にボートに乗っていた仲間が憎らしくて
ブドウをぶつけたり、ボート競争をしたりしたが、
山口はかなわず、ヤリキレナイ気持ちになったという。
そのことがユーモアたっぷりに書かれている。
正確には、これは手紙ではない。
治子のためにお祝いの寄せ書きをした手帳を
山口は持って帰っていた。
手帳が返されたときに書かれていたのだ。
治子は、この文章を読んだときに甘酸っぱいような気持ちが胸にあふれ、
すぐに返事を書いた。ここからふたりの恋愛がはじまった。