「古川緑波」帝国ホテルのグリル
昭和の喜劇役者にして、エッセイスト、
古川緑波の食べることにかける情熱は、異様だった。
昭和19年、帝国ホテルのグリルが注文制となった。
事前に二人前を申し込む。その日の日記。
一人前だと困るので、
影武者も連れて行き、その分も食う。
彼は、目の前へ並んだのを見るだけだ。
辛かろうが、許せ。
困る、とはどういうことだろう。
緑波は、美食家であるうえに、大食漢でもあった。
その夜、知り合いに連れていかれた茶房で、
鶏肉、卵、その他いろいろ御馳走になり、
ウイスキーで心地よく酔う。
帰りの駅までの道遠く、
月明の下を、テクテク歩き、
酔いも醒める。
少し残念そうである。贅沢な男だ。