大友美有紀

大友美有紀 15年3月7日放送

150307-01
JeremiahsCPs
「プラントハンター西畠清順」ネペンセス・ラジャ

プラントハンターという職業がある。
17世紀から20世紀の初めにかけて、ヨーロッパで
王族や貴族のために世界中の珍しい花を求めて冒険し、
苗や種を持ち帰っていた人たちだ。

21世紀の日本にもプラントハンターがいる。
西畠清順。150年続く植物卸問屋「花宇」の五代目。
中学、高校と、野球漬けの青春。植物にまったく興味がなかった。
ところがボルネオで運命の出会いを果たす。

キナバル山の奥の秘境におもろい植物があるから探してこい、と父に言われた。
その時点でも西畠の興味は、植物ではなく「秘境」。
登りはじめると、キナバルは想像以上に険しい山だった。
同行者は普通の登山客、植物探しにつきあわせるわけにはいかない。
みんなより早く歩いてあたりの林を探しまわった。
そして標高2600m付近でその「おもろい植物」に出会う。
世界最大の食虫植物「ネペンセス・ラジャ」だ。
怪しい赤い色を放つ、ほかの植物とは違う圧倒的な存在感。
西畠の中で感動がドカンと弾けた。

 植物って俺が考えているよりも、もっとすごいもんとちゃうか。

これが西畠の植物探求の旅の始まりになった。

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大友美有紀 15年3月7日放送

150307-02
Domenico / Kiuz
「プラントハンター西畠清順」ミレニアムオリーブツリー

プラントハンター西畠清順は、
世界各国を駆け巡り依頼のあった植物をお客様に必ず届ける。
だが、時には買い手のない植物を輸入することもあった。

それは樹齢千年のオリーブ。
さまざまな植物のプロから「絶対不可能」と言われたそのプロジェクトは
2006年の衝撃的な1本の木との出会いから始まる。

ヨーロッパにプラントハンティングに行った西畠は、
スペイン人の植物バイヤーから近くにすごい木があるから
見に行こうと誘われる。
それはとてつもないオリーブの巨木。
太さは大人が両腕を伸ばして3人がかりでやっと囲めるぐらい。
うねるように波打つ木肌は、ねじれ、ある部分は大きくえぐれていた。
ミレニアムオリーブツリーと呼ばれるその木は、
神が宿っているかのような神々しい佇まいだった。

 どうしても日本人に見てほしい。そして感動してほしい。
 これこそが自分の求める「人の心を豊かにする木」だ。

そして5年後の2011年、様々な苦難を乗り越え、その思いは実現した。
樹齢千年のオリーブの木は、今、小豆島に植えられている。

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大友美有紀 15年3月7日放送

150307-03
hichako
「プラントハンター西畠清順」桜の開花

たとえば、デパートのディスプレイなどで、桜の季節よりも前に
桜の花が咲いているのを見たこと、ありませんか。

プラントハンター西畠清順が五代目を務める
植物卸問屋「花宇」には、開花調整という技術がある。
桜の枝を温室にいれ、温かい環境をつくって、
桜に季節を誤解させ咲かせるのだ。
そうして注文の時期に桜を咲かせる。
簡単なようだが調整中の水ひとつにも細心の注意をはらっている。

花宇が開花調整に使う桜の供給源になっている村がある。
長野の筑北村。西畠の祖父が村の人と意気投合して、桜づくりが始まった。
以来50年近く苗から育ててもらっている。
あるとき西畠は、最初に桜を植えた人、西澤寿雄さんの書を見た。

 その花を愛し、その根を思う。

人に支えられてこそできる仕事、おごらずに謙虚にしなければならない。
西畠は、そう教えられた。

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大友美有紀 15年3月7日放送

150307-04
T DOUGLAS
「プラントハンター西畠清順」ドラゴンブラッドツリー

ソマリアとイエメンの間に浮かぶ小さな島、ソコトラ島。
ドラゴンブラッドツリーや砂漠のバラなど約300種の固有種があり、
環境保全の必要性から2008年世界遺産に登録された。

プラントハンター西畠清順は、
初めてソコトラを訪れたとき、あまりに美しすぎて
地球上に実在する場所とは思えなかった。
なかでもそびえ立つドラゴンブラッドツリーのインパクトが強烈だった。

ソコトラ島には植物の保護活動をしている親子がいた。
絶滅危惧種の植物を山でハンティングして育苗場で育てている。
今のうちから育てておかないとソコトラ島の未来が危ないと、
息子のアハマドは言う。
山には何千、何万という木が生えているが、若い木がほとんどない。
野生化した山羊が木の若芽を食べてしまうのだ。
そのことに気づいたから、木を育てることにした。

おもだった産業のないこの島では、観光業だけが頼りだ。
世界遺産に登録されてから多くの人が訪れるようになった。
巨大なドラゴンブラッドツリーが枯れてしまったら、致命的なダメージをうける。
親子は、何十年、何百年後の島のことを考えて植物を増やしはじめた。

 貴重な植物を守るため、木を切らせないという 保護の仕方も理解できる。
 しかし、植物を守るためにあえて人の手でハンティングし、育てる、
 というやり方もあるのではないか。

プラントハンター西畠は、あらためて、そう思った。

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大友美有紀 15年2月7日放送

150207-01

「今夜は木星見物」イオ

2015年2月7日、今夜は木星が衝(しょう)となります。
衝とは外惑星が地球を挟んで太陽と正反対の位置に来ること。
晴れている場所では、一晩中、肉眼でもはっきり見ることができます。
天体望遠鏡があればガリレオ衛星も見えるかもしれません。

木星はジュピター。ギリシャ神話のゼウスの英語名。
1610年にガリレオ・ガリレイが発見した4つの衛星には、
ゼウスの愛人の名が付けられています。
一番内側を公転しているのは、イオ。
ゼウスの妻ヘラに使える女神官でした。
イオに夢中になったゼウスは、雲に姿を変え、
彼女と愛を交わします。
そして、ヘラの嫉妬を恐れてイオを白い牡牛に
変えてしまいます。

神話ではイオはヘラに追われ最後はエジプトに逃げのびます。
宇宙では、ゼウスの一番近くで回っているのです。

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大友美有紀 15年2月7日放送

150207-02

「今夜は木星見物」エウロパ

今夜、東南東の空、月の右斜め上あたり、
ひときわ明るく輝く木星がよく見えることでしょう。
ガリレオが発見した木星の4つの大きな衛星には、
ギリシャ神話の大神ゼウスの、愛人の名がつけられています。

ガリレオ衛星のうち二番目に内側を
公転しているのが、エウロパ。
ある時、天から地上を見ていたゼウスは、
海辺で遊ぶフェニキア王の娘、エウロパに
ひと目惚れをしてしまいます。
ゼウスは白いうつくしい牡牛の姿で地上に
降り立ち、エウロパに近づきます。
面白がったエウロパが背にまたがると
牡牛は風のように海を渡り
クレタ島までやってきてしまいます。
そしてゼウスの姿に戻り、おまえは世界一の幸せ者だよ、
永遠に名を残すことになるよ、とエウロパを口説き、
愛を交わし、3人の男の子をもうけました。

エウロパはヨーロッパの語源。
ゼウスの言葉どおりに名を残したのでした。

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大友美有紀 15年2月7日放送

150207-03

「今夜は木星が」ガニメデ

1610年にガリレオ・ガリレイが発見した木星の4つの衛星。
イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト。
すべてギリシャ神話に登場するゼウスの愛人の名です。

ガニメデはトロイアの王子、たいへんな美少年でした。
美貌に虜になったゼウスは鷲に姿を変え、
天の国へガニメデをさらってきてしまいます。
そして神の宴席で自分の盃に酒を注ぐ役目につかせます。
この役目は大変名誉なものでした。
本来は娘のヘベの役目だったため、
ゼウスの妻、ヘラは激怒してガニメデを殺そうとします。
愛する少年の命を救うため、ゼウスはガニメデを星に変えました。
水瓶を持った少年の姿が天に輝くことになったのです。

ガニメデは、水瓶座の星として酒を注ぎ
木星の衛星として、今でもゼウスのそばにいるのです。

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大友美有紀 15年2月7日放送

150207-04

「今夜は木星が」カリスト

今夜は木星が、地球を挟んで太陽の正反対の位置に来る夜です。
晴れた場所ならば、一晩中、肉眼でもよく見えるでしょう。
木星はジュピター。ギリシャ神話の大神ゼウスの英語名。
ガリレオが発見した木星の4つの大きな衛星には
すべてゼウスの愛人の名がつけられています。

4つの衛星の中で最も外側を回っているのが、カリスト。
最も美しい女、という意味で、ゼウスに愛された妖精でした。
カリストはゼウスの子、アルカスという男の子を産みます。
ゼウスの妻、ヘラはそのことに気づき、
カリストを熊に変えてしまいます。
森で暮らしていたカリストは、ある日、
立派に成長したアルカスに出会います。
懐かしさのあまり息子に駆け寄ると、
母とは知らず、アルカスは熊に弓を向けます。
それを見たゼウスは、不憫に思い、息子をこぐまに変え、
母子ともども空にほおりあげて、星座にしました。
それがおおぐま座とこぐま座になりました。

ヘラの嫉妬にもひるむことなく
たくさん恋をし、たくさん子をなしたゼウス。
その名にちなんだ木星には、
63の衛星が確認されています。

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大友美有紀 15年1月4日放送

150104-01

「縁の下の力持ち」前島密(まえじまひそか)

年賀状は届きましたか。
消費税額の変更で、1円切手が貼ってある
葉書、ありませんか。
その切手に描かれている人物は、
日本近代郵便の父、前島密。

 縁の下の力持ちになることを厭うな。
 人のためによかれと願う心を常に持てよ。

これは、前島密の信条。
1円切手はまさに縁の下の力持ち。
日本の郵便事業誕生をささえた人物は、
今も郵便をささえている。

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大友美有紀 15年1月4日放送

150104-02

「母の言葉」前島密(まえじまひそか)

前島密は、越後国の生まれ。幼名を房五郎という。
幼い時に父を亡くし、医者である叔父の世話になっていた。
叔父の家では、医書に接し、薬剤の調合や患者の扱いなどを
見よう見まねで覚えた。漢詩や俳諧も学んだ。
ある時、夕暮れの枯れ木にカラスがとまっているのを見て、
寂寞の趣を感じ、句を詠んだ。

 夕鴉(ゆうがらす) しょんぼりとまる 冬木立

俳句の席でこれを披露すると大いにほめられ、
賞品ももらった。
帰宅すると母は居住まいを正して語った。

 幼くして書を理解しほめられている者も、
 成長するにつけ凡庸となり笑われてしまうこともあります。
 今日のことも、同じように、あなたの心に自負を生じさせ
 いつか過ちを起こすのではないかと心配です。

 
この言葉を前島は、生涯の訓戒にしたという。

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