「父と息子」中原中也
近代詩人・中原中也は、
人並みはずれた子煩悩だった。
長男を2歳で亡くした時、
悲しみのあまり屋根を歩き回った。
窓から暗い月夜を見ていると
瓦屋根のうえに白蛇が横たわっていて
それが確かにこどもを奪ったヤツなので、
踏み殺そうと思って屋根へ上った。
その1年後、
中也の通夜の席で、11ヶ月の次男が、
カステラを手でつかんでもみくちゃにしてしまった。
それを見た客がこんどは杯を持たせてみると
次男は小さな手でそれを受け取り、
生前の中也そっくりの手つきで杯を持った。
弔問客は、どっと笑い、悲しみの涙を絞った。