名雪祐平 18年12月29日放送
普通の赤ちゃん
40年前、
世界初の体外受精によって
生まれた女の子、ルイーズ。
その誕生は、何を意味するのか?
科学者や宗教指導者から
一般市民まで巻きこみ、
世界中、賛否両論。
でも、ずっと不妊に悩んでいた
ルイーズの両親にとっての意味は、
たったひとつ。
ついにできた、
私たちの赤ちゃん!
家族を非難したり、
嫌がらせの手紙がつぎつぎ届いたが、
その一方で、
子どもに恵まれない世界中の夫婦から、
祝福の手紙が何百通と届いた。
ルイーズは、
新しい希望の子になった。
名雪祐平 18年12月29日放送
Maurice Pullin
普通の赤ちゃん
世界初の試験管ベビーと呼ばれた
ルイーズ・ブラウン。
今年、40歳になった。
ルイーズには魂がない、と
非道い言葉を浴びせられた過去もあった。
でも、それから体外受精で生まれた
赤ちゃんは、世界で800万人。
日本でもいま、
18人に1人が体外受精で生まれる。
とっくにもう、試験管ベビーという
特別な存在ではなく、
普通の赤ちゃん。
ルイーズはいま、
イギリス西部の港町で、
配送会社に勤めている。
ほかのみんなと同じように、
大人になり、
普通の女性になった。
生まれてくるのに、
科学の力を、
すこし必要としただけ。
ほかのみんなと、なんにも変わらない。
名雪祐平 18年12月29日放送
普通の赤ちゃん
中国で生まれた
双子の女の子、ルルとナナ。
その存在が、
世界を驚愕させた。
世界最大級のタブー。
ヒトの遺伝子を操作する
ゲノム編集によって生まれた、
と、中国の研究者が突然発表したのだ。
世界中から批判が殺到。
当の研究者は、
勤務する大学当局によって
軟禁されたという。
まだ謎ばかり。
ただひとつ、言えること。
ルルとナナは、生きている。
そしてこれからも、生きていく。
ルルとナナに、何も罪はない。
かけがえのない命があるだけだ。
薄景子 18年12月23日放送
愛のことば ヘンリー・ヴァン・ダイク
明日はクリスマスイヴ。
世界中のサンタクロースが
プレゼント探しで
かけずりまわっている頃だろう。
あれが欲しいって言ってたっけ。
いやこっちの方が喜ぶかな。
その人を想えば想うほど、
迷って迷ってプレゼントが決まらない。
そんな優柔不断なサンタさんに、
アメリカの作家、
ヘンリー・ヴァン・ダイクの言葉を贈ります。
最高のクリスマスプレゼントは
一番お金をかけたものではなく、
一番多くの愛がこもっているもの。
何を贈るか、迷って迷って
ずっと選べなかったことを伝えてみる。
できれば、言えなかった愛のことばとともに。
ただそれだけで、どんなプレゼントも、
きっと最高の笑顔に変わるはず。
熊埜御堂由香 18年12月23日放送
愛のことば 愛の教科書
1956年に出版されてから、
世界中で読み継がれている愛の教科書がある。
ドイツの哲学者、エーリッヒ・フロムの「愛するということ」。
愛とは、修練で身につける技術であるとフロムは説き、
「他者を愛する」能力を身につける方法が体系的に記されている。
フロムはこう問いかける。
人々が愛を軽く見ているわけではない。
それどころか誰もが愛に飢えている。
ところが、愛について学ばなければならないことがあると考えている
人はほとんどいない。
その上で、こんな厳しい言葉を投げかけてくる。
愛というものは簡単に浸れるような感情ではない。
真の意味で人を愛するには、
自分の人格を発達させ、全力で努力しなければならない。
つまり、大事なのは、
愛されること、愛を受け取ることばかり求めるのではなく、
愛すること、愛を与えることをまず考えること。
何度読み返しても難しいけれど、
クリスマスの直前に、
フロムの教科書をもう一度、復習してみようか。
小野麻利江 18年12月23日放送
愛のことば ディケンズの「単純な真実」
イギリスの文豪、チャールズ・ディケンズの
代表作のひとつ『クリスマス・キャロル』は
1843年の、ちょうどこの時期に出版された。
並外れた守銭奴のスクルージという男が
クリスマス・イヴの日に、かつての盟友の亡霊と対面。
自らの過去・現在・そして未来を見せられ、
結果、改心するというストーリーだ。
ディケンズが生きたヴィクトリア朝のイギリスは、
産業革命によって大きく発展を遂げた一方で、
国内の貧富の差が拡大していった時代。
ディケンズ自身も、父親が借金返済できずに投獄され、
12歳の時から、靴墨工場で過酷な労働を強いられたという
不遇な少年時代を送っている。
その影響があってか、ディケンズが紡ぐ物語は、
社会の底辺にいる貧しい人々に目を向け、
たとえ暗いテーマを扱っていても、
最後には、一縷の希望を感じさせるものが多く、
「人生の危機において、『単純な真実』ほど強く安全なものはない」
という彼の主張が、色濃く反映されている。
ディケンズがたどり着いた「単純な真実」とは何か。
それは、このような言葉で遺されている。
A loving heart is the truest wisdom.
愛する心は最も真なる知恵である
小野麻利江 18年12月23日放送
愛のことば いろんな「愛」
愛って、なんだろう。
歴史的にも地理的にも、愛にはいろんな姿がある。
古代ギリシアにおける愛は「エロス」と呼ばれ、
肉体的な交わりから、さらに真理へ至ろうという衝動を含んでいる。
キリスト教における愛は「アガペー」。
隣人との人格的な交わりと、神への愛を強調している。
仏教での愛は「渇愛(かつあい)」。
「喉が渇いている時に水を飲まずにはいられないような、根源的欲望」
に例えられ、煩悩のもととして否定的に見られている。
日本ではかつて、「愛」という文字は「かなし」と読み、
相手をかわいいといとおしみ、守りたいという気持ちを意味していたが、
明治に入り、ギリシャやキリスト教的な概念が
同時に輸入されたことで、
「愛」が、より多くの意味を含むようになってしまった。
ロマンチックなムード高まる、この季節。
もし愛のことばをささやく予定がある方は、
その「愛」が、どんな気持ちから来ているか。
ちょっと考えてみるのも、面白いかもしれません。
石橋涼子 18年12月23日放送
愛のことば 日本と俳句とクリスマス
日本独自の文化である俳句の世界で、
初めて季語として認められたカタカナ言葉が、
「クリスマス」だ。
取り入れたのは、正岡子規だと言われている。
結核を患い病弱だった一方で
好奇心は人一倍旺盛、新しいものも大好きだった子規。
当時、日本に定着しつつあったクリスマスを
楽しむべきイベントとして、
いち早く受け入れた感性は、さすがと言うしかない。
8人の こどもむつまし クリスマス
贈りものの 数を尽くして クリスマス
晩年は床に伏して静養する日々だった子規だが、
彼が詠んだ句には、
うるさいくらい賑やかな家族団らんの情景が目に浮かぶ。
楽しそうなことは、楽しむ。それでいいじゃないか。
子規のおおらかさもひと役買ったのか、
クリスマスは日本の家庭に、俳句に、すんなり受け入れられた。
あなたもクリスマスで一句、愛のことばを紡いでみませんか。
石橋涼子 18年12月23日放送
愛のことば クリスマスカードに愛を込めて
もうすぐクリスマス。
海外では、グリーティングカードを送りあう季節でもある。
日本でいう年賀状を兼ねることも多いが、
いつもは照れくさくて言葉にできない
愛情や感謝を込めたメッセージを伝える役割が大きい。
恋人に、家族に、大切なあの人に。
すこし照れくさいくらいの、愛のことばを綴って
贈ってみてはどうだろうか。
とはいえ、愛情を表現しようと思うと、
なぜか悩んだり困ってしまうのが人情というもの。
そんなときはカントリーミュージックで知られる
ドリー・パートンの言葉を思い出そう。
愛とは、あなたをこれでもかというほど悩ませる、
天からの贈りもの。
きっと、あなたが悩んで言葉にしなかったたくさんの気もちも、
カードには沁みこんでいるはず。
それでも筆が進まない場合は、古代ローマの哲学者であり
手紙を書くのが大好きだったキケロの言葉を思い出そう。
手紙では人は赤面しない。
あなたの愛が届きますように。メリークリスマス。
茂木彩海 18年12月23日放送
ryanacandee
愛のことば 熱帯に暮らす小鳥の場合
青い背中に、細いしっぽ。
まるで帽子をかぶったかのような赤い頭がかわいらしい
熱帯に暮らす鳥、オナガセアオマイコドリ。
体長10センチほどのこの小鳥は、愛の言葉をダンスで伝えるのだが
1羽のメスに対して、2羽のオスでダンスをする決まりがある。
この2羽のオス、実は厳しい師弟関係を結んでおり、
弟子入りまでに8年、
師匠になって、自分がプロポーズできるようになるまで
さらに10年もの年月がかかるという。
弟子は師匠のプロポーズを見ながら愛の言葉を学び、
弟子入り前の若いオスたちは、プロポーズの様子を見学しながら
暇さえあればダンスの練習を欠かさない。
彼らの苦労と比べれば、同じ生き物として
好きな時に好きなだけ愛の言葉をささやけるというのは
案外幸せなことなのではないだろうか。
愛のことばは、人間だけに与えられた、
謳歌すべき特権のひとつなのである。