佐藤延夫 18年6月2日放送
趣味に生きる 前田綱紀
加賀藩第5代藩主、前田綱紀は
学問を好み、図書の収集に心血を注いだ。
藩内に書物奉行を任命し、
全国各地に家臣を派遣して本を集めさせた。
お金で買えない古文書は、
借用して丁寧に写し取ったという。
蔵書は数十万点に及び、
儒学者、新井白石は「加州は天下の書府なり」と讃えている。
そしてまた、全国の工芸に関する道具、材料など
あらゆる資料を分野別にまとめた「百工比照」を編纂した。
たとえて言うなら、
人間図書館。人間博物館。
堅苦しいお城の中よりも、
本や美術品に囲まれて暮らしたかったに違いない。
佐藤延夫 18年6月2日放送
趣味に生きる 増山正賢
伊勢長島藩第5代藩主、増山正賢は文人大名と呼ばれ、
山水画や花鳥画など文芸の世界で優れた才能を発揮した。
特に「虫豸帖」と呼ばれる
蝶や蝉、カブトムシ、クワガタなど
昆虫を精緻に捉えた作品は、
現代の図鑑に見劣りしないほどの出来栄えだ。
描く際には、生きている状態ではなく、
命をいただき、あらゆる角度から写しとった。
正賢は、虫の亡骸を小さな箱に入れ、
大切に保管していたという。
上野寛永寺の境内には、
彼が虫の霊を慰めるために建てた、
虫塚という慰霊碑が残っている。
一寸の虫にも五分の魂。
このことわざは、彼のためにあるのかもしれない。
佐藤延夫 18年6月2日放送
研究情報アーカイブズ
趣味に生きる 堀田正敦
下野佐野藩主、堀田正敦は
政治家として寛政の改革を推進する傍ら、
文芸活動にも力を発揮した。
和歌や紀行文なども書いたが、
代表的なものは、「禽譜」と呼ばれる鳥の図鑑だ。
自分で集めた鳥を絵師に描かせ、
他の大名が持つ図譜は複写して集めた。
鶴や孔雀など、日本でおなじみの鳥はもちろんのこと、
エトピリカ、ペンギンなども描かれている。
学問こそ、彼の最大の道楽だったのだろう。
熊埜御堂由香 18年5月27日放送
うたのはなし
いいうたって、なんだろう。
世界最古と言われる歌がある。
3400年前にシュメール人が
石版に刻んだ賛美歌のメロディだ。
ひとが一番最初に音を奏でた時、
ひとは祈りをその心に抱いていた。
いいうた、それは心に宿るうた。
熊埜御堂由香 18年5月27日放送
sa_ku_ra
うたのはなし 大阪うまいもんの歌
いいうたって、なんだろう。
関西人ならきっと誰もが知っている
「大阪うまいもんの歌」という手遊び歌がある。
保育園や幼稚園で子どもたちに歌い継がれてきた。
♪大阪にはうまいもんがいっぱいあるんやで〜
をはじまりに、たこ焼きや、もんじゃ焼き、かに道楽まで
紹介していく。
育ち盛りの子どもたちが思わず口ずさむ。
それは、大阪を代表する、花マルの「いいうた」だ。
薄景子 18年5月27日放送
うたのはなし What a Wonderful World
いいうたって、なんだろう。
世界中の人々を泣かせた名曲、
「What a Wonderful World」
そのタイトルを聴くだけで
ルイ・アームストロングの濁声がリフレインし、
偉大な愛に包まれるような気持ちになる。
作詞・作曲は音楽プロデューサーの
ボブ・シール。
ベトナム戦争を嘆き、
平和な世界を夢見て書かれたその歌詞は
戦争のことにはひとこともふれず、
ただただ美しい言葉で綴られている。
どんなにこの世が不条理でも
それでも、世界は素晴らしくなれる。
そう言い聞かせてくれるように。
いいうたには、希望がある。
その希望を忘れさせないために
うたは歌いつがれ、聴きつがれてゆく。
茂木彩海 18年5月27日放送
Christopher.Michel
うたのはなし くじらのうた
いいうたって、なんだろう。
ザトウクジラはラブソングを歌うことで知られているが、
決まった時期にみんなが口ずさむ流行のうたがあったり、
その曲にアレンジを加えてみたり、
歌い終わるのに1日かかるうたもあるのだという。
どんなラブソングも、自分らしく歌い上げること。
いいうたの極意を、くじらのうたから学んでみる。
茂木彩海 18年5月27日放送
しらたきあおい
うたのはなし 小沢健二のうた
いいうたって、なんだろう。
「渋谷系」の言葉に代表されるアーティスト、小沢健二。
1995年、人気絶頂の中リリースされたうた「さよならなんて云えないよ」。
タイトル通り、この曲には「さよなら」という言葉は一度も登場しない。
それでも、別れが近いことをお互いが感じ取っている
その切ない様子が、つとめて明るく描写される。
別れは美しくもある。
彼なりの美学が、このうたには込められている。
♪”オッケーよ”なんて強がりばかりをみんな言いながら
本当は分かってる2度と戻らない美しい日にいると
そして静かに心は離れてゆくと
石橋涼子 18年5月27日放送
うたのはなし ペギー葉山とドレミのうた
いいうたって、なんだろう。
小学校でも習う「ドレミの歌」は、
元はブロードウェイミュージカルの劇中歌だった。
ジャズシンガーでもあるペギー葉山が
アメリカの劇場で聴いて感動し、
帰りの飛行機で翻訳をしたという。
実は、オリジナルにはドーナツもレモンも出てこない。
ドーナツからはじまる歌詞に関して、彼女は
戦争中にいちばん食べたかったものが
ドーナツだったと新聞のインタビューで答えている。
日本中のこどもに愛されているうたには、
意外な想いがこめられていた。
石橋涼子 18年5月27日放送
うたのはなし 口ずさむうた
いいうたって、なんだろう。
歌詞もメロディもうろ覚えのうたは、
いいうただろうか。
ひとりで運転しているとき、
料理をつくっているとき、
誰かを待っているとき、
口ずさむ、うた。
うまくもない、正しくもない
けれど、100%自分のためのうた。
心理学者であり哲学者でもある
ウィリアム・ジェームズはこんな言葉を残した。
人は幸せだから歌うのではない。
歌うから幸せなのだ。
今日、あなたはどんなうたを口ずさみましたか。