澁江俊一 17年9月10日放送
紋章の人間国宝
メートル・ダールをご存知だろうか。
それは日本の人間国宝にならって
策定されたフランス版人間国宝の名称である。
その一人、ジェラール・デカンは
紋章づくりの伝道師であり、第一人者。
彼の紋章は、物語だ。
顧客と会話しながら、
家計の歴史、家族との愛の物語を、
時と共に忘れ去られぬよう、
紋章の中に正確に、繊細に、刻み込む。
紀元前4世紀のメソポタミア文明に
インスパイアされて生まれた
たくさんの野生動物を刻印した「方舟」は
一見の価値ある傑作である。
澁江俊一 17年9月10日放送
羽細工の人間国宝
メートル・ダールをご存知だろうか。
それは日本の人間国宝にならって
策定されたフランス版人間国宝の名称である。
その一人、ネリー・ソニエは羽細工の職人。
鳥や木々や草花に囲まれて育ち、
14歳で失われつつあった伝統技術の
羽細工に出会った時、
これこそ天職だと悟った。
色とりどりの繊細な鳥の羽。
その一枚一枚を加工し、つなぎ合わせて
花や、草木、ドラゴンなど
複雑なモチーフを創り上げていく。
見る者はまず
その造形の美しさに驚き、
近くで見るとそれが
一枚一枚の羽でできていることに
もっと驚く。
かつて空を飛んでいた羽が
別の形になって、私たちの想像力を、
天高く羽ばたかせる。
その感動は、なかなか味わえないものだ。
澁江俊一 17年9月10日放送
扇の人間国宝
メートル・ダールをご存知だろうか。
それは日本の人間国宝にならって
策定されたフランス版人間国宝の名称である。
その一人、シルヴァン・ル・グエンは
最年少38歳でメートル・ダールに認定された扇作家。
ソフィア・コッポラ監督の映画
「マリー・アントワネット」に出てくる貴族の扇の
すべてをデザインしたのが、彼。
日本の折り紙に着想を得て、広げると
飛び出す絵本のように立体装飾が現れる扇など
その作品は遊び心に満ちている。
開いてみて驚く人々の表情をいたずらっぽく
眺めている、そんなシルヴァンの姿が目に浮かぶようだ。
澁江俊一 17年9月10日放送
エンボスの人間国宝
メートル・ダールをご存知だろうか。
それは日本の人間国宝にならって
策定されたフランス版人間国宝の名称である。
その一人、ロラン・ノグは
エンボス加工の芸術的職人。
紙などを裏から押し上げて
図柄を浮き彫りにするのがエンボス加工。
ロランのエンボスは
浮かび上がると言うよりも
まるで生きているようだ。
父と同じ印刷業を営みながら作品づくりを行い
失われゆく伝統技術の保存と再生を目指して
自身のアトリエを構えるロランは
多くの高級メゾンからの依頼が絶えない。
紙に施された彫刻のような
ロランのエンボス加工。
あなたもその目で確かめてほしい。
田中真輝 17年9月10日放送
傘の人間国宝
メートル・ダールをご存知だろうか。
それは日本の人間国宝にならって
策定されたフランス版人間国宝の名称である。
その一人、ミシェル・ウルトーは映画界や
王族から使命を受ける傘のデザイナー。
物心ついた頃から、傘は最高のおもちゃだったと
語る彼は、幼い頃から傘を分解しては
組み立て直すことに没頭していたという。
普通の人からすれば単なる雨を避ける道具、
しかし彼からすれば、それは情熱を傾ける
に足る美を宿した構造物に他ならない。
いま、あなたの目の前にあるものを、
改めて見つめてみてほしい。そこに美を
見いだせるかどうかは、あなた次第なのかもしれない。
田中真輝 17年9月10日放送
折り布の人間国宝
メートル・ダールをご存知だろうか。
それは日本の人間国宝にならって
策定されたフランス版人間国宝の名称である。
その一人、ピエトロ・セミネリは
ファッションやインテリアの世界で
注目を集めている折り布作家。
折り紙を応用した全く新しい芸術表現を
生み出す彼の作品には、愛読する
ライプニッツやドゥルーズといった哲学者の
深い思索が反映されている。
複雑かつ精緻なデザインを見つめていると
その奥行きに引き込まれそうになるのは、
そこに哲学的な深淵が
隠されているからかもしれない。
田中真輝 17年9月10日放送
エリオグラビュールの人間国宝
メートル・ダールをご存知だろうか。
それは日本の人間国宝にならって
策定されたフランス版人間国宝の名称である。
その一人、ファニー・ブーシェは
フランスで唯一のエリオグラビュール作家。
エリオグラビュールとは、ユネスコに無形文化財として
登録されている銅板と感光性のゼラチンを用いて印刷する技法。
しかし彼女はそれを単なる印刷技術としてではなく、
銅板そのものをアート作品として捉え、全く
新しい工芸美術を開拓、三次元の作品創作に
挑戦している。
二次元の表現手法を三次元へと進化させた
ファニー・ブーシェ。その眼差しは、
次元の壁を軽々と越えていく。
厚焼玉子 17年9月9日放送
ジャン・ジレル
漆黒の茶碗の内側に
虹色に輝く星が散らばる曜変天目茶碗。
中国は宋の時代、わずかにつくられた曜変天目茶碗は
世界に4つしかなく、
その全てが日本の国宝であり需要文化財になっている。
しかし、現代の曜変天目は存在する。
制作者はジャン・ジレル。
生涯を曜変天目に捧げたフランスの陶芸家だ。
謎に包まれた曜変天目を
東洋の伝統と西洋の技術の融合で
現代によみがえらせるジャン・ジレルの作品は
9月12日から国立博物館で開かれる
フランス人間国宝展で見ることができる。
厚焼玉子 17年9月9日放送
セルジュ・アモルソ
彼が作るバッグの数は年に100個ほど。
顧客と直に話し合い、デザインを決める。
彼の仕事場には機械が一つもない。
バッグも、スーツケースも全て手縫いで作られている。
彼の名はセルジュ・アモルソ。
エルメスの工房で技術を培い、
パリにアトリエを開いてからは
オーダーメイドの作品を制作するようになった。
バッグや財布、スーツケースなどを
「芸術作品」と呼んでいいのだろうか?
その疑問への答を自分の目で確かめよう。
フランス人間国宝展、
9月12日から国立博物館で開催。
厚焼玉子 17年9月9日放送
クリスティアン・ボネ
屋久島の海亀保護のNPO法人の支援者たちの中に
MAISON BONNETという名前が見える。
これはフランスのオーダーメイド眼鏡の会社で、
その三代目社長クリスティアン・ボネは
フランスでただひとりの
そして最後の鼈甲細工職人だ。
ボネが作るのは眼鏡のフレームだけではない。
カフリンクス、ペーパーナイフ、櫛…
貴重な鼈甲の小さな破片も無駄なく利用するために
独自の技術も開発した。
その優れた技術によって
ボネはレジオンドヌール勲章を受け
フランスの人間国宝にも選ばれた。
フランス人間国宝展、
9月12日から国立博物館で開催。