熊埜御堂由香 16年10月30日放送
お風呂のはなし 夢二と彦乃の湯桶温泉
詩人・画家の竹久夢二とその恋人、笠井彦乃。
1917年に2ヶ月以上の北陸の長旅で
金沢の湯桶温泉へ逗留した。
夢二のファンだった19歳の彦乃が、
画廊へ通ううちに心が通じた。
12歳の歳の差と、夢二の女性遍歴で
親から反対を受け、それを押切り同棲するようになった。
そんなふたりが、もっとも幸せな時間を
すごしたといわれるのが
湯桶温泉だ。
3週間、ゆっくりと湯につかりすごした。
その直後、彦乃は結核にかかり入院してしまう。
父親の反対で夢二と面会もできないうちに
息をひきとった。まだ25歳だった。
夢二はその年の誕生日にこう言った。
私は三十七歳で死んだことになっているんです。
彼女が二十五で、私が三十七で死んだのです。
その後も夢二は多くの女性と恋に落ちる。
けれど、彦乃と過ごした湯桶温泉での時間は、
夢二の心の中に、大事に、大事に、しまわれていたに違いない。
薄景子 16年10月30日放送
お風呂のはなし ピカソの名言
20世紀を代表する巨匠画家、ピカソ。
10代で天才的な絵画技術をマスターし、
その後、「青の時代」「ばら色の時代」「キュビズム」と
画風を一新しながら、絵画界の新境地を切り拓く。
見たこともない構図、
独特の人物描写、息をのむ色使い…。
常識も既成概念も破壊する作品の数々は
今もなお世界中でリスペクトされ続ける。
生涯で遺した作品数は約15万点。
最も多作な美術家として
『ギネスブック』に記されているピカソ。
膨大な作品とともに、彼が遺した名言をひとつ紹介する。
すべては奇跡だ。例えば、お風呂に入ったとき、
あなたがお湯に溶けてしまわないことだって。
ためしに、今夜のお風呂で
体が溶けない奇跡を味わってみる。
天才ピカソにはなれなくても、
当たり前のことを奇跡と感じるだけで、
きっと新しい世界が見えてくる。
茂木彩海 16年10月30日放送
zamojojo
お風呂のはなし 吉田修一の初恋温泉
血行を良くしたり、老廃物を出したり、
温泉には疲れを癒す様々な効果効能があるわけだが、
日常から離れるという行為そのものも、
天地効果と呼ばれ、心のリラックスに一役買っているという。
吉田修一の短編小説、「初恋温泉」。
年齢も、関係も、まったく異なる5組の男女が登場する
温泉が舞台のこの小説では、
そんな効能あってか、あらゆる名言がさく裂する。
幸せなときだけをいくらつないでも、 幸せとは限らないのよ。
冗談半分というのは、半分は冗談じゃないということなのだ。
不満なんて、ない。ただ、あなたと一緒にいたくないだけ。
などなど。
本音も温泉の力を借りれば話しやすい、ということか。
それが良いか悪いかはさておき、
この秋は大切な人と会話しに、温泉に出かけるのも良いかもしれない。
茂木彩海 16年10月30日放送
Dal Lu
お風呂のはなし 湯布院のはじまり
いまとなっては国内有数の温泉地として知られている湯布院。
ところが40年程前までは、奥別府と呼ばれる小さな温泉街だった。
ここを、観光地・湯布院として生まれ変わらせたのが、
中谷健太郎。
現在も続く老舗旅館「亀の井別荘」のオーナーだ。
明治大学卒業後、東宝に入社した中谷は
黒澤明監督らの下で助監督を務めるほどの映画人であったが、
父の急逝により実家の旅館「亀の井別荘」を継ぐことになる。
廃れた温泉街をどうしたら盛り上げることができるか。
頭をひねった中谷は、自分の得意技である映画で解決を試みた。
今年で第41回を迎える、湯布院映画祭だ。
中谷は言う。
「温泉」は地球の中の子宮のような、自然の温かみがある。
こんな表現ひとつとっても、かつて映画を愛したように
温泉を文化として、作品として愛す中谷の想いが伝わってくる。
名雪祐平 16年10月29日放送
Bob Dylan 『Blowin’in the Wind』
ボブ・ディラン、21歳。
『風に吹かれて』
を書いた。
どれだけ道を歩けば
一人前の男として認められるのか?
いくつの海を飛び越えたら
白い鳩は砂浜で安らぐことができるのか?
何回弾丸の雨が降ったなら
武器は永遠に禁止されるのか?
答えは 友よ 風の中
答えは風の中
黒人差別の解消を求める
公民権運動が高まるなか、
書かれた歌詞。
その文学性は、
差別や戦争がなくない限り、
永遠に世界中に響きつづける。
名雪祐平 16年10月29日放送
Bob Dylan 『Like A Rolling Stone』①
ボブ・ディラン、24歳。
『ライク・ア・ローリング・ストーン』
を書いた。
どんな気分だ?
何を感じる?
帰る家もなくして
誰にも知られることなく
ただ転がる石のようになってさ
地位も名誉もお金もある女性が
人生を転がり落ちていく歌詞は
その社会批評性が絶賛され、大ヒットとなる。
皮肉にも、
若いディラン自身がこの曲によって、
地位も名誉もお金も手にしてしまった。
しかし、そこに留まろうとするディランではなかった。
Like A Rolling Stone
名雪祐平 16年10月29日放送
brizzle born and bred
Bob Dylan 『Like A Rolling Stone』②
ボブ・ディラン、24歳。
『ライク・ア・ローリング・ストーン』
を歌った。
フォークの神様となったディランが
エレキギターに持ちかえ、演奏始めると、
フォークに固執する客席から「裏切り者!」と
バッシングが飛んだ。
それでもディランはかまわず、歌った。
自分が歩んできた道を破壊したのだ。
自分自身が変われ。
転がる石のように。
これが、その夜から、
ロックの定義そのものになった。
『ライク・ア・ローリング・ストーン』は、
ローリングストーン誌が選ぶ
オールタイム・グレイテスト・ソング500の
第1位と輝いている。
名雪祐平 16年10月29日放送
Bob Dylan 『The Times They Are a Changin’』
ボブ・ディラン、19歳。
『時代は変わる』
を書いた。
ラインが引かれると
呪いが放たれる
足の遅いやつだって
早くなることもある
今新しいことも
明日には古くなる
秩序だって
混沌に変わる
正義だって
悪徳になる
時代は変わるのだから
この歌詞をジョン・F・ケネディ大統領の
就任演説をテレビで眺めながら
ディランは走り書きした。
2年後にレコーディング。
そのわずか1ヶ月後、
ケネディ大統領は暗殺された。
時代は変わる。
ディランが書いたように、変わる。
名雪祐平 16年10月29日放送
mkarakoulaki
Bob Dylan
ボブ・ディラン、75歳。
『ノーベル文学賞』受賞。
オバマ大統領はツイッターで受賞を祝福した。
「私の大好きな詩人、
ボブ・ディラン、おめでとう」
ディランは受賞決定後初のコンサートを
ラスベガスで開いた。
多くのファン、世界中のメディアが詰めかけていた。
ディラン、ステージに登場。
観客、総立ち。大歓声。
しかし、受賞のメッセージは一切なく。
『風に吹かれて』など17曲を演奏し、
歌うためにここに来て、去っていった。
歌詞こそ、メッセージ。
ディランらしい態度だったのかもしれない。
答は風の中
松岡康 16年10月23日放送
麗子像
横につぶれたような輪郭と日本人形の様なおかっぱ頭。
糸の様に切れ長の目で不気味な笑みを浮かべている。
岸田劉生作、麗子像。
日本で一番有名な少女の肖像画をみて、
不気味だと思う人は多いかもしれない。
劉生は20代前半で巨匠デューラーに傾倒し、写実の追及を始めた。
娘の麗子が生まれると、実に16年にもわたって彼女を描き続けた。
そして気が付く。
写実の持つ均衡を少しだけ崩すことで、不思議な美しさが生まれることに。
不気味な少女の画をじっと眺めていると、
怖さだけではない美しさが見えてくる。