小林慎一 16年8月21日放送
過剰と蕩尽篇
人は人になった時から
生存に必要以上のものを生み出し続けている。
そのような行動をとる動物は人だけである。
経済学は、生産の効率化と大規模化で説明しているが
そもそもなぜ必要以上なものを生み出すのか
という説明にはなっていない。
栗本慎一郎が専門にする経済人類学には
「過剰・蕩尽理論」という重要な説がある。
蕩尽とは、使い尽くすという意味である。
人は、ワザと過剰なものをつくりだし、それを、蕩尽する時に、快楽を感じる。
それは、積み上げた積み木を壊す時の、子供の喜びと同じ種類だと言う。
普通の日は、働き、過剰を溜め込み、
溜め込まれた物や人間のエネルギーを、
非日常の日に消費し、破壊する。
そのような祭りは、古代や未開社会だけでなく、
現代社会にも数多くある。
暑い夏。
それは、蕩尽の季節でもある。
佐藤理人 16年8月20日放送
pcgn7
名探偵と都市 モースとオックスフォード
イギリスの名探偵ランキング第一位は、
シャーロック・ホームズじゃない。
オックスフォードの街が生んだ天才、モース警部。
天才の常として彼は間違ってばかりいる。
しかしその妄想すれすれの推理が、
なぜか最後には美しく謎を解き明かす。
名門大学のお膝元にふさわしい高度な頭脳プレイ。
モースの推理をたどるのは、
天才の頭の中を覗き見るのに似ている。
それもそのはず。作者のコリン・デクスターは、
クロスワードパズルのチャンピオンに三度も輝く、
正真正銘の天才だった。
佐藤理人 16年8月20日放送
名探偵と都市 メグレとパリ
パリを愛した名探偵、メグレ警視。
彼の推理は極めて地味だ。
鮮やかなトリックの種明かしも、
あっと驚くアリバイ崩しもない。
証拠より心理を重視した緻密な論理の積み重ね。
その興味は誰が犯人かより、
なぜ罪を犯してしまったのかにある。
パリの街を歩きながら、
彼は犯人の皮膚の下に入り込み、
苦しんだ時間を共有しようとする。
運命の修理人
として人生の不幸な偶然で
道を踏み外した人を正しく導きたいと願うメグレ。
彼が向き合うのは犯罪者ではなく、
罪を犯さざるを得ない人間の弱さだった。
佐藤理人 16年8月20日放送
Leigh Harries
名探偵と都市 ポアロとロンドン
灰色の脳細胞を持つ名探偵、
エルキュール・ポアロ。
作者のアガサ・クリスティはあえて彼を、
ロンドンっ子とは正反対の人物に描いた。
小柄で太った体に不似合いなスーツと蝶ネクタイ。
外ではシルクハットとステッキを手放さず、
気取った口ひげは見る者の笑いを誘う。
キメてるようでキマっていない、
紳士の国のエセ紳士。
ヘンテコな見た目に油断した犯人たちは、
このベルギー生まれの「ガイジン」に、
次第に嘘や矛盾を暴かれていく。
エルキュールとはギリシャ神話における、
英雄ヘラクレスのこと。
緻密な論理と偏執的な粘り強さで、
傲慢な階級社会の鼻を明かす彼の姿は、
まさに小さなヘラクレスだった。
佐藤理人 16年8月20日放送
moriza
名探偵と都市 スカダーとニューヨーク
ハードボイルドの主人公は普通、
自分の生き方を変えたりしない。
マット・スカダーは違う。
ローレンス・ブロックが生んだ
この根暗で酒好きの私立探偵は、
年を重ねるごとに人間性が変化する。
ニューヨークで生きる人々の多彩な価値観。
眠らない街のダイナミズムと孤独。
目まぐるしく動くこの街で、
過去を振り返っている暇はない。
スカダーもまた前向きに成長を遂げていく。
未来を信じて歩き続けるその姿は、
人は何度でもやり直せるという、
ニューヨークからのメッセージのようだ。
森由里佳 16年8月14日放送
Khamis Hammoudeh
旅 おいしさをつたえる旅
ノルウェーの本店と同じ時間の流れ方を体験してほしいなって思っています。
そう語るのは、小島賢治。
カフェ「フグレントウキョウ」のオーナーだ。
インテリアショップの流れをくむ本店と同様、
内装はすべてノルウェーヴィンテージ。
日本では珍しい、
浅煎りコーヒーのフレッシュな薫りであふれるこのカフェは、
世界最高と称された「FUGLEN」の初海外進出店だ。
世界中にゆっくりと拠点をつくっていくそのさまは、
まるで、止まり木をつくりながら旅をつづける渡り鳥のよう。
フグレン。
それは、ノルウェー語で「鳥」を意味する。
森由里佳 16年8月14日放送
oolalah
旅 コーヒートリップ
ノルウェー・オスロから進出した人気カフェ、
フグレントウキョウ。
オーナー・小島賢治は、熱心なバリスタだ。
日本を飛び出してシドニーで修行を積んだのち、
単身オスロに乗り込んでフグレン本店の門をたたいた。
しかし、彼が伝えたいのは
コーヒーのおいしさだけではないという。
フグレンには、ノルウェーが好きな人が来たりするんですよ。
本店に行かなくても同じ時間の流れと味が飲めるっていうのは
面白いじゃないですか。
フグレンが提案するのは、時間の過ごし方。
一杯のコーヒーが、連れて行ってくれる旅がある。
佐藤日登美 16年8月14日放送
Travel Unmasked
旅 食べて、祈って、恋をして
「食べて、祈って、恋をして」
人生に迷った女性が、自分の思うがままに世界を旅し、
思うがままに食べて、祈って、恋をする物語。
ジュリア・ロバーツが主演したこの映画は、
作家エリザベス・ギルバートの自叙伝である。
彼女は、イタリアでピッツアとパスタとジェラートを心ゆくまで食べ、
インドで静かに瞑想し、
インドネシアで美しい海と、あたたかな人たちに出会う。
わがままと言われようとも、自分の気持ちに正直に、ひたむきに。
旅は、それを許してくれる。
佐藤日登美 16年8月14日放送
bortescristian
旅 ふわふわのオムレツ
海に浮かぶフランスの世界遺産、モン・サン・ミッシェル。
その名物に、ふわふわの特大オムレツがある。
19世紀、宿屋を営むマダム・プラールが始めたと言われている。
中世から、巡礼地として多くのひとが訪れていたモン・サン・ミッシェルだが、
そこまでの道のりは決して楽なものではなかった。
潮の満ち引きがはやく、海に飲まれて命を落とすひともいた。
そんな命がけの旅を終えた巡礼者たちに、
あたたかいごはんをお腹いっぱい食べさせてあげたい。
そう思ったマダム・プラールは、卵をたっぷりと泡立て、
あつあつのオムレツをふるまった。
旅人を癒してくれるのは、
いつの時代もおいしい料理と、地元のひとのやさしさだ。
蛭田瑞穂 16年8月14日放送
バイク便八王子立川所沢
旅 旅に出る理由1
東京タワーから続く道で、
彼は恋人からニューヨーク行きの決意を伝えられる。
乗り気じゃなかったはずの、突然の心変わりだった。
旅立ちの日。ひとけのない海岸で、
彼は「元気でいて」と恋人をギュッと抱きしめる。
そしてふたりは空港へ急ぐ。
小沢健二の『僕らが旅に出る理由』では
旅に出る恋人との別れが描かれる。
小沢健二は歌う。
遠くまで旅する人たちに あふれる幸せを祈るよ
ぼくらの住むこの世界では旅に出る理由があり
誰もみな手をふってはしばし別れる