伊藤健一郎 16年4月23日放送
Gruenewiese86
ビールのお話 フィリップ・マーロウの飲み方
レイモンド・チャンドラーの小説に登場する、探偵。
フィリップ・マーロウは、言い放つ。
「タフでなければ生きてゆけない。優しくなれなければ生きている資格がない」
たとえ酒を飲むときでさえ、ハードボイルドを貫くマーロウ。
ウイスキーをストレートで、ちびりちびり。
酒に飲まれぬよう、チェイサーとして、ビールを頼む。
マーロウは言う。
「飲むのなら自尊心を忘れないようにして飲みたまえ」
百戦錬磨のマーロウにとって、ビールは自尊心を保つための相棒だった。
ところで、4月23日の今日は、ビールの日。
乾杯のもと、素敵な出来事が次から次へと生まれているはずですが、
それはまた、別のお話。
澁江俊一 16年4月17日放送
最初の恐竜
今日は、恐竜の日。
恐竜の存在を最初に知らしめたのは
イギリス人医師ギデオン・マンテル。
19世紀前半に彼が見つけたイグアノドンの歯は
まわりからは哺乳類のものだと指摘され
なかなか信じてもらえなかった。
その歯が化石であることを証明するため
マンテルは地層を丹念に調べ、次々と化石を発見する。
すべてを恐竜に費やした結果、彼は破産。
知人の勧めで自宅を博物館にするが
入場料を無料にしてしまい、潰れてしまう。
まだ世界中の誰も信じていないものを、信じさせる。
そのためには自分一人の人生など惜しくないと
マンテルは、信じていたのかもしれない。
松岡康 16年4月17日放送
イグアノドン晩餐会
1853年ロンドン。
イグアノドンの体内で晩餐会が開かれた。
会の主催者は古生物学者リチャード・オーウェン。
彼はロンドンで開催される世界初の恐竜展に向けて、
イグアノドンなどの復元模型の制作監督を務めていた。
当時はまだ完全な全身骨格が発見されていなかったため、
復元は難航したという。
完成間近の1853年の大晦日。
オーウェンは建造途中のイグアノドンの体内で晩餐会を主催した。
1億年も前の生物を想像し、復元させてみせた。
イグアノドンの体内でオーウェンがかみしめていたのは
大きな達成感だったのかもしれない。
奥村広乃 16年4月17日放送
Kabacchi
伝わる名前
福島県、いわき市。
大久川(おおくがわ)の崖で発見された
スズキフタバリュウ。
自己資金ではじめられた化石発掘は、
すぐに資金が底をつくことになる。
当時、国立科学博物館に勤めていた長谷川善和(はせがわよしかず)。
彼は、資金難を克服すべくスズキフタバリュウのPRを開始した。
国内の専門誌や博物館のニュース。
できる限りの宣伝をおこなった。
その時大切にしたのは、
一般の人たちにまで広まること。
蛇頸竜(だけいりゅう)や、長頸竜(ちょうけいりゅう)という
専門用語を使わず、
多くの人にわかりやすい、
「クビナガリュウ」という名前を使った。
名前は、名付け親だけのものではない。
呼んでくれる人たちのことを考えてつける必要がある。
多くの人が読めること。
伝わりやすいこと。
それが出来てはじめて、
人々に親しまれ、愛され続けることが出来る。
いまや、恐竜や大型は虫類の研究で世界に知られる長谷川氏。
彼はすぐれたコピーライターでもあったといえよう。
澁江俊一 16年4月17日放送
恐竜ハンター
今日は、恐竜の日。
恐竜の卵の化石を最初に発見したのは
20世紀初頭に活躍したアメリカ人の探検家
ロイ・チャップマン・アンドリュース。
アンドリュース探検隊は
今や恐竜化石の産地として知られるゴビ砂漠で
自動車を駆使し、多くの恐竜化石を発見した。
世界で初めて、恐竜の卵の化石を見つけたのも彼らだ。
私は探検家になるために生まれてきた…
探検家になるにあたって選択の余地はなかった。
私は他に何もできないが、幸せである。
そう語った彼は、
あのインディアナジョーンズの
モデルの一人とも、言われている。
礒部建多 16年4月17日放送
恐竜のif
「もし恐竜が絶滅していなかったら。」
そんな問いを研究する古生物学者がいる。
デイル・ラッセル。
提唱するのは、ディノサウロイド。
進化を続けた結果、
人間に似た形態を採りえるという仮説だ。
見た目はまるで、
爬虫類の頭を持った人間のよう。
二足歩行で、言語に近い文明さえ持つという。
突飛な仮説に、一部の学者からは批判を受けた。
しかし同時に、そのSFのような内容に
多くの人々が胸を踊らせた。
絶滅の本当の理由など、
恐竜にはまだまだ謎が多い。
謎がある限り、学者たちの夢は絶えることはない。
礒部建多 16年4月17日放送
恐竜の声
本当の恐竜の鳴き声を、まだ誰も知らない。
現代で再現されているそれは、
骨格を参考に考案された音にすぎない。
映画、ジュラシックパークで、
音響デザインを担当したゲイリー・ライドストロームは、
想像の斜め上をいく方法でそれらを再現した。
ヴェロキラプトルという恐竜のうめき声は、亀の交尾の音。
荒々しい鼻息の正体は、馬の声。
そしてティラノサウルスの声は、
彼の愛犬の鳴き声が使われたという。
とある専門家は、
そもそも恐竜は鳴き声を発することが出来なかったとも言う。
本当の恐竜の声はどんなものなのか。
ゲイリーが生み出したそれは、覆されるのだろうか。
松岡康 16年4月17日放送
ゴジラという名の恐竜
世界で最も有名な怪獣といえばゴジラだ。
1954年に公開すると観客動員数は961万人を突破。
アメリカなど日本国外でも上映されて大ヒットとなった。
そんなゴジラの名を
学名に持つ恐竜がいるのをご存じだろうか。
その名もゴジラサウルス。
アメリカで骨格の一部が発見され、
1997年に新属新種として記載された。
名をつけたのは怪獣マニアのケネス・カーペンター博士。
幼少時に母と共にゴジラの映画を観たことが
恐竜学の道に進むきっかけであったという。
空想の怪獣だったゴジラが、実在の恐竜となった。
奥村広乃 16年4月17日放送
偉業を支える人
48年前。
その発見は、日本中を熱狂させた。
福島県、いわき市。
のどかな田園風景のすぐそばで、
古代生物の化石が発見されたのだ。
それは後にスズキフタバリュウと名付けられる、
日本初のクビナガリュウの化石だった。
スズキフタバリュウの発掘は、
地元の人の熱意で支えられた。
中でも馬上(もうえ)石材の職人は
発掘の初期から関わっていた。
クビナガリュウの分類で重要な
頭の骨を掘り起こしたのは、彼らだったという。
現地の地層を見て、
的確にタガネを打ち込んでいく。
そのプロの技に、立ち会った研究者は息を飲んだ。
世界の偉業は、
名の知れない職人達の活躍無しには
成し遂げられない。
スイッチを押せば流れるこのラジオの音も、
数えきれないほど多くのプロ達によって
支えられているのだ。
佐藤理人 16年4月16日放送
贋作士たち 「ショードロンのモナリザ」
モナリザ売ります
普通ならこんな話誰も信じない。
しかし1911年は違った。
モナリザが盗まれていたからだ。
犯人は贋作界の巨匠イブ・ショードロン。
清掃員に扮してルーブル美術館に忍び込み、
絵を盗んだ後、自分の贋作を売りさばく、
大胆不敵な犯行だった。
騙された6人のアメリカ人が30万ドルずつ支払った。
だが欲に目のくらんだ仲間が本物を美術商に持ち込んだ。
美術商は直ちに警察に通報。一味は全員逮捕された。
本物のモナリザは、今もルーブルで静かに微笑んでいる。