檀上真里奈 16年1月31日放送
Speaker resources
肩書きの話 ジョンレノン
ジョン・レノンには音楽活動を一切していない5年間がある。
それはヨーコとの間に息子が産まれたときだった。
「表舞台が恋しくないのか。」
「成功を捨てるなんて、正気じゃない。」
父親として生きるジョンに、周囲は否定的だった。
後にこの時を振り返った歌、「watching the wheels」がリリースされる。
「ただ回る車輪を眺める。僕はそれが好きなんだ。
メリーゴーランドにはもう乗らない。ふっきれたんだ。」
この歌を聴くと思う。
世界の何に価値があるか、それは自分で決めていいんだ。
檀上真里奈 16年1月31日放送
執着の話 フェルディナン・シュバル
フランスの郵便局員フェルディナン・シュバルは
ある日、道で石につまづいた。
石は見たことの無いような不思議な形をしていた。
それが、インスピレーションの瞬間。
その日から彼は、配達が終わると石を拾いに行き、
自宅の庭にそれらを積み上げるようになった。
取り憑かれたように、毎日、毎日。
彼を心配する者も、彼を馬鹿にする者もいた。
33年間。
石が壁となり、
建物となり、
宮殿となった。
その名も、「シュバルの理想宮」。
いまでは国の重要建造物に指定されている。
その前向きな執着心に、憧れずにはいられない。
檀上真里奈 16年1月31日放送
663highland
化粧の話 寺山修司
装飾の多い女を嫌う男は多い。
しかし、寺山修司はこう言った。
「私は化粧する女が好きです。
そこには、虚構によって現実を乗り切ろうとするエネルギーが感じられます。
顔をまっ白に塗りつぶした女には
「たかが人生じゃないの」というほどの余裕も感じられます。」
世間には、化粧を「武装」と考える人もいるけれど、
寺山修司のこの考えは、それとは少し違う。
自分を良く見せる、他人のための化粧より、
自分のなりたいものになる、自分のための化粧の方が、たしかに面白い。
名雪祐平 16年1月30日放送
首の行方 吉良上野介
313年前の今日、1703年1月30日。
赤穂浪士47士の討ち入りによって、
吉良上野介が暗殺された。
雪ではなかった。
月の光が、上野介の首を照らした。
首は箱に詰められ、
赤穂浪士の亡き主君が眠る
泉岳寺の墓前に供えられた。
泉岳寺の僧侶は
首を吉良家へ送り返し、
引きかえに受取りをもらった。
いまでいう領収書である。
領収書には一筆、こう書かれていた。
首一つ
名雪祐平 16年1月30日放送
首の行方 オリバー・クロムウェル1
367年前の今日、1649年1月30日。
イギリス国王チャールズ1世が
公開処刑された。
首が切り落とされた瞬間、
「うぉー」という
民衆の暗いどよめきが起きた。
国王を死に追いやったのは、
清教徒革命の主役、
オリバー・クロムウェル。
クロムウェルは
王族のシンボルカラーである
紫のマントを羽織って、現れた。
王の首を、自分にすげ替えのだ。
しかし、12年後の、同じ1月30日。
チャールズ1世の息子、
チャールズ2世によって、
自分の首が切られることになる。
名雪祐平 16年1月30日放送
首の行方 オリバー・クロムウェル2
335年前の今日、1661年1月30日。
ある男の遺体が、
遺体なのに、
首吊りの刑にされた。
イギリスの清教徒革命で
国王チャールズ1世を滅ぼした
オリバー・クロムウェルの遺体だった。
クロムウェルの死後、王政が復古し、
英雄のまま亡くなったはずが、
大反逆者となってしまったのだ。
首も刎ねられ、
ウエストミスター寺院の屋根に
25年間も晒しものになった。
ある日、暴風雨がやって来た。
首が、コロリと、地面に落ちた。
首は、それから300年の旅に出る。
名雪祐平 16年1月30日放送
首の行方 オリバー・クロムウェル3
首が、地面に落ちた。
イギリス国王の逆賊として晒し首になった
オリバー・クロムウェルの首。
その首を守衛の一人が拾った。
自宅の煙突に隠し、
娘にだけ秘密を明かし、亡くなった。
人は秘密を守れない。
誰の手によるものか、
「クロムウェルの首」は売りに出され、
90年後には見世物小屋で、
再び晒し首になったという。
首は人々の手を転々と、流転した。
金儲けに利用する者。
家宝として崇める者。
やがて1960年、
クロムウェルの母校である
ケンブリッジ大学に寄贈された。
クロムウェルの首に、
もう目はなかったが、
300年、人間の何を見てきたのだろう?
名雪祐平 16年1月30日放送
Mike Evangelist
新生命体 リチャード・スクレンタ
34年前の今日、1982年1月30日。
人類が、人類以外の
まったく新しい生命体を産んだ。
コンピューターウィルス
「Elk Cloner」である。
作者は、アメリカ・ピッツバーグの
15歳の高校生
リチャード・スクレンタ。
ともだちのパソコンAppleⅡに
数行のポエムを表示させるだけの
たわいないイタズラだった。
しかしいま、1年間でばらまかれる
新種のコンピューターウィルスは
2000万種類。
人類は、自ら産んだ悪い生命体と、
終わりなき世界大戦を戦っている。
熊埜御堂由香 16年1月24日放送
abakane
北欧のはなし リサ・ラーソンの優しいライオン
スウェーデンを代表する陶芸家、リサ・ラーソン。
ストックホルム郊外の自然に囲まれた自宅兼アトリエで
84歳の今も創作を続けている。
リサは、アトリエに来たすべてのひとを
スウェーデンのひとに欠かせないというお茶の時間、
「フィーカ」でもてなす。
そこには家族がつくった手作りのお菓子が並ぶ。
画家の夫や、その子ども、さらに孫たちが
集い、暮らしと創作が混じり合って、
リサの暖かみのある陶芸作品が生まれていく。
だからだろうか、
リサの代表作として知られる、
ころんと丸い陶器のライオンは
とても穏やかで優しい目をしている。
石橋涼子 16年1月24日放送
Peter Guthrie
北欧のはなし ハンス・J・ウェグナー
北欧インテリアのお店に行けば
必ず置かれている、
ハンス・J・ウェグナー デザインの椅子。
デンマークに生まれた彼は、
家具職人の経歴を生かし
木材を使った名作チェアを数多く生み出した。
生涯にわたり500脚以上の椅子をデザインした彼が
自宅の椅子でくつろいでいる写真が残っている。
どっかりと椅子に身を任せ、
大きく開いた足をアームに乗せた横座りの姿は
見ようによっては、行儀が悪いと見えるけれど、
ウェグナーは、
これが本来のイージーチェアの座り方だよ
と言ったのだという。
動くのが人間の本能だ。
という事実を常に尊重したウェグナーだからこそ、
自由にくつろげて、且つ、美しい椅子がつくれたのかもしれない。