名雪祐平 15年10月31日放送
今夜、変装する者たちへ アーネスト・ヘミングウェイ
文豪、ヘミングウェイは、女の子だった。
かわいい長い髪、ふわふわのワンピース姿の
写真が残っている。
男の子を欲しがらなかった
母親グレイスによって、
4歳ころまで女の子に変装させられていた。
そんな幼少期に反動するように、
女の子は、マッチョな大人の男になる。
スペイン内戦への参加。
アフリカでのライオン狩り。
フロリダ沖でのカジキマグロとの格闘。
しかし、息子の自由奔放な生活を
母親は認められず、ついに二人は絶縁。
ヘミングウェイは、母親の葬儀にも
出席しなかった。
今夜、女の子に変装する人々へ。
Happy Halloween
名雪祐平 15年10月31日放送
今夜、変装する人々へ ジョージ・ハント
19世紀半ば。
オーストラリア、タスマニア島に、
脱出不可能といわれる
ポート・アーサー刑務所が完成した。
陸路は、先端の監視システムが阻み、
海には、サメがうようよ泳いでいた。
逃げ道には死しかなかったが、
囚人ジョージ・ハントは
意外な方法で逃げようとした。
ハントはカンガルーの皮で変装し、
カンガルーのマネをして不格好に歩いた。
看守がカンガルーを、撃った。
脱走者を撃ったのではない。
カンガルーを夕食で食べるために撃ったのだ。
ハントは降参し、捕まった。
もちろん、食べられることはなかったが、
鞭打ち150回の刑を受けたという。
今夜、獣に変装する人々へ。
Happy Halloween
名雪祐平 15年10月31日放送
今夜、変装する者たちへ 古代ケルト人
化け物よ、街に出よう。
今夜、おまえたちが練り歩く、
Halloween
魔女、骸骨、怪物、ゾンビ。
不気味な変装が多いのはなぜか。
Halloweenは、3000年前、
ヨーロッパの古代ケルト人が起源。
ケルト人にとって季節は、
夏と冬の2つしかなく、
10月31日が、大晦日だった。
その日は、異界からやってくる
悪霊たちを追いはらうお祭り。
人々は魔除けの仮面をかぶり、
一晩中、焚火を灯し続けた。
その雰囲気が3000年つづいて今夜。
物影から、古代ケルト人が
現代の化け物たちを覗いているかもしれない。
今夜、化け物に変装する人々へ。
Happy Halloween
名雪祐平 15年10月31日放送
今夜、変装する者たちへ アレクサンドル・ボグダーノフ
ロシアの革命家、
アレクサンドル・ボグダーノフは
医者、哲学者、SF作家でもあった。
彼は、社会主義においては、
人の血液や遺伝子さえも共有財産と考えた。
輸血実験が始まる。
自ら実験台となり、11回輸血。
若返り、不老不死を目論んでいたという。
視力が回復し、
見た目も10歳若返ったと評判になった。
しかし、若い学生から輸血した血液が
マラリアと結核に感染してた。
若返ろうとして、若死にすることになった。
今夜、若々しく変装する人々へ。
Happy Halloween
蛭田瑞穂 15年10月25日放送
音楽と人 バッハと神
モーツァルトは生活のために曲を書いた。
天才モーツァルトは音楽を愛好家する貴族の注文に応じて
すらすらとピアノ・ソナタを作曲した。
ベートーヴェンは野心のために曲を書いた。
自分の発表したピアノ・ソナタが
世間でどのような反響を起こすか。
それがつねにベートーヴェンの関心事だった。
ヨハン・ゼバスティアン・バッハは神のために曲を書いた。
バッハの音楽においては神が究極の聴き手であり、
神に音楽を捧げることで、バッハは人間としての完成をめざした。
蛭田瑞穂 15年10月25日放送
音楽と人 バッハとコーヒー
18世紀の初頭、音楽は教会で演奏されるものだった。
その時代にバッハは街のコーヒーハウスで演奏会を開き、
音楽の裾野を広げた。
ただ、当時コーヒーハウスは女人禁制。
女性はコーヒーを飲むべきではないという風潮があった。
そんな風潮に反発して詩人のピカンテは
コーヒーはキスより素敵と訴える娘を主人公にした
『おしゃべりはやめて、お静かに』という戯曲を書き、
のちにバッハが曲をつけた。
『コーヒー・カンタータ』とも呼ばれるこの曲、
秋の夜に温かいコーヒーを飲みながら聴いてみたい。
蛭田瑞穂 15年10月25日放送
音楽と人 バッハと国王
1745年、オーストリア王位継承戦争が集結すると、
プロイセン国王フリードリヒは宮廷に62歳のバッハを招いた。
バッハが到着すると国王は
「皆の者、老バッハが参ったぞ」と叫び、大いに歓迎し、
ピアノの演奏をバッハに依頼した。
国王の求めに応じて、バッハはみごとな即興演奏を披露した。
素晴らしい演奏に、その場にいる誰もが息を呑んだ。
のちにバッハは演奏を楽譜に起こし、
あらたに書き下ろした曲とともに国王に贈った。
バッハ最晩年の傑作『音楽の捧げもの』は
こうして出来上がった。
森由里佳 15年10月25日放送
音楽と人 感情と音楽:レナード・バーンスタイン
何よりもすばらしいのは、
音楽が伝えることのできる感情の種類は無限だということである。
言葉で表現できない深い感情までも、音楽は明確に示してくれる。
そう語ったのは、ピアニスト、指揮者として
世界に名を知られるレナード・バーンスタイン。
このことは、彼が手がけたミュージカル、
つまり、音楽によって物語を紡ぐ作品を見るとよくわかる。
たとえば、ウエストサイドストーリー。
プロローグでは若者グループの対立が音楽にのせて描かれるが、
彼らの感情を表現する言葉は、ゼロといってもいいほどだ。
言葉は、人だけが操ることができる。
音楽もまた然り、である。
森由里佳 15年10月25日放送
GUiBOY
音楽と人 体験と音楽:高木正勝
『おおかみこどもの雨と雪』、『バケモノの子』など
多くのヒット映画を音楽で支えるアーティスト、高木正勝。
彼は、国内外にかかわらず、自然に近いところで、
昔ながらの生活をする人たちが奏でる音楽に魅了されるという。
しかし、その音楽を真似することはできても、
同じ強さの表現に達することは、できないのだそうだ。
元になっている体験がないから出てこないんです。
山に柴刈りにいったり、火を熾したり、畑をしたり、祭りをしたり。
自分の身体で体験して初めて「こういうことだったのか」と
分かるものだらけなんです。
仕事の依頼が引きも切らない彼はいま、
兵庫県と京都府の境にある小さな村に住んでいる。
森由里佳 15年10月25日放送
lee.chihwei
音楽と人 人生と音楽:久石譲
久石譲。
その名は多くの音楽とともに日本人の心の中にある。
世界中からのオファーで多忙な彼は、
意外にも、その日常はルーティンワークに占められるという。
延々とルーティンワークを繰り返していれば、
苦しくなって、逃げたくなるときはありますよ。
それでも音楽を続けるのは、僕にとって「音楽」というのは、
イコール「生きること」だからです。
人生が、一日一日を重ねていくように、
音楽もまた、一音一音を重ねて流れゆく。
楽譜通りに演奏しても全く同じ音楽にはならないように、
「おなじことを繰り返すだけの毎日」というのも、
本当はないのかもしれない。