飯國なつき 15年10月25日放送
音楽と人 小澤征爾とタクト
小澤征爾。
世界を代表する指揮者である彼が、
タクトを使っていないことにお気づきだろうか。
荒々しい曲では、こぶしを突き上げ、
ゆるやかな旋律には、やさしくほぐすような手つきで、指揮をする。
きっかけは、あるウイーンでの演奏会。
タクトを自宅に忘れ、急遽用意してもらったタクトもしっくりこず、
手だけで指揮をすることにした。
ところが、オーケストラの団員はだれも、そのことを気づかない。
そこで彼は思い切ってタクトを手放した。
小澤は言う。
そこの鉛筆、あなた持ってごらん。力がいるでしょう?
持っていたら、いろいろと考えなきゃいけない。
落としちゃいけないとか、飛んでいったら大変だとか。
世界の音楽を操るその手つきは、いつだって柔らかく伸びやかだ。
飯國なつき 15年10月25日放送
音楽と人 フランシス=プーランク
フランシス=プーランク。
20世紀のフランスを生きた作曲家。
生粋のパリっ子であり都会人であった彼の曲は、
ユーモアとアイロニー、そして知性にあふれている。
二度の大戦に従事したが、厳しい時代に生きたことを感じさせないほど
軽やかな音楽を奏で続け、「エスプリの作曲家」と言われた。
私の音楽を分析するな、愛せよ!
そう言い切るプーランク。
小難しく考えない。
楽しいことには、楽しく向き合ってみる。
時にはそう考えた方が、人生はちょっと楽しくなる気がしませんか。
伊藤健一郎 15年10月24日放送
国連の日(国連憲章)
1945年、第二次世界大戦終結。
そして同年、51ヶ国が加盟する国際連合は誕生した。
「戦争を防ぐことができなかった」その反省を踏まえ生まれた国際連合。
国連憲章の前文は、こんな一言で始まる。
われら連合国の人民は、われら一生のうちに二度まで
言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から、将来の世代を救う。
国際連合が発足して70年。
今日は国連デー
伊藤健一郎 15年10月24日放送
国連の日(緒方貞子)
戦後70年となる2015年。EUへ向かう5隻の船が、地中海に沈んだ。
乗船していたのは、2000人に及ぶ難民。うち1200人が犠牲となった。
緒方貞子。UNHCRで、難民保護に尽力した彼女は、
第8代国連難民高等弁務官としての活動を終えるとき、こんなスピーチをした。
家を追われ、最も貧しい境遇にある人々を守らんとするみなさまの献身に尊厳を。
難民に寄り添い、前線で人道支援に従事する者たちに尊厳を。
そして誰よりも、難民に尊厳を。
今なお続く紛争で、難民は増加の一途をたどり、全世界で6000万人を数える。
わずかな判断の誤りで多くの人命を失う、難民保護。
その第一線に立ち続ける、緒方は言う。
熱い心と、冷たい頭を持て。
国際連合が発足して70年。
今日は国連デー
伊藤健一郎 15年10月24日放送
国連の日(ダグ・ハマーショルド)
世界がかくも荒涼としているのは、
貧しさの反映なのか、誠実さの反映なのか。
…絶望が答えを与えてくれるであろうか。
第2代国連事務総長、ダグ・ハマーショルド。
国際紛争の解決に尽力した彼には、20歳から書き始めた日記があった。
おまえの職務は、支配する権利をおまえに与えてなどはいない。
ただ、他人が屈辱感なしにおまえの命令を聞き入れることができるよう、
自分の生き方を正してゆく義務をおまえに課するに過ぎぬ。
国際社会の命運を背負う自分を戒めるためだけに、生涯書き続けた日記だった。
国連の日の今日、
スカイツリーは、国連カラーの青に染まる。
その照明は「環境に配慮しながら貧困をなくす」という目標を
表現するにふさわしいLEDだ。
伊藤健一郎 15年10月24日放送
国連の日(蟻田功)
紀元前1350年の文献にも記され、悪魔の病気として恐れられた、天然痘。
その撲滅に尽力した一人の日本人がいる。
医学者、蟻田功。
1967年から、国連機関WHO(世界保健機関)の
天然痘撲滅プロジェクトリーダーを務めた。
太古から続く殺人ウイルスとの戦いの最中、蟻田は言った。
人生の価値は、やる気で決まる。
諦めることは、もっとも無意味なことだ。
だから、私は作戦を続けたい。
そして1980年、地球上からの天然痘根絶宣言を発表した。
今日、10月24日は、国連の日。
今夜のスカイツリーは、国連カラーの青に染まっている。
伊藤健一郎 15年10月24日放送
@otromundoesposi en twitter
国連の日(フェデリコ・マヨール)
国連機関UNESCOは、
教育や文化の振興を通じて、戦争を繰り返さないために設立された。
ユネスコ憲章には、こんな一文がある。
戦争は人の心の中で生まれるものであるから、
人の心の中に平和の砦を築かなければならない。
かつて、ユネスコで事務局長を務めたフェデリコ・マヨールは言う。
もし、平和がすべての人びとにとっての権利であるならば、
平和の文化はすべての人びとの責任であることを、今日理解しなくてはならない。
本当の平和は、力によって維持するものではなく、
理解によってこそ実現できるのだと思う。
国際連合が発足して70年。
今日は国連デー
薄景子 15年10月18日放送
Benson Kua
日本語のはなし 想紫苑
日本の色を表す言葉は、その響きまでもが美しい。
10月の誕生色といわれる、想紫苑(おもわれしおん)。
秋の野に可憐に咲く明るい紫の花は、
風や嵐で倒れても、いち早く立ち直ることでも知られる。
紫苑の花には、こんな逸話もある。
昔、親を亡くした兄弟がいた。
兄は忘れ草といわれる萱草(かんぞう)を、
弟は思い草といわれる紫苑を、墓に植えたところ、
兄はやがて親を忘れるが、
弟はいつまでも思い続けたという。
しとやかな想紫苑の紫は、
どんな風にも想いを揺るがせない
ひたむきな美しさを秘めている。
石橋涼子 15年10月18日放送
モリッティオ
日本語のはなし 食卓の日本語
朝昼晩の食事のたび無意識に口にする
「いただきます」「ごちそうさま」。
この言葉は日本語ならではで、
外国語に訳すのは難しいと言われている。
四季に恵まれ、食材豊かなこの国には、
日本語ならではの食の表現が多い。
刻々と変化する四季に合わせて
季節の食材も「はしり」「旬」「名残」と区別される。
「おすそわけ」も日本語ならではだ。
新米のおいしいこの季節でいうと、
炊き立てのつやつやのごはんを、よそう。
装うとは、整える、飾る、風情を添える、と言う意味。
食材に敬意を払いながら
見た目にも豊かな気分でいただこうという気分は
きっと他の国にもあるけれど、
しっかり言葉になっているのは
うれしいことだと思う。
今日もおいしいごはんをよそって、
さあ、いただきます。
茂木彩海 15年10月18日放送
jiroh
日本語のはなし 虫たちの声
秋になるとどこからともなく聞こえてくる虫の声。
10月にもなるとコオロギ、マツムシ、ツクワムシと
小さな合唱がいたるところで行われている。
西洋人は虫の声を機械音と同じように左脳でとらえるが
日本人は、右脳にある言語脳でとらえることができるように
できているという。
俳句の世界には、虫に関するこんな長い季語がある。
「藻に住む虫の音に泣く」
実際には声を持たない虫の声も日本人は聴いているのだ。
他にも、「蚯蚓(ミミズ)鳴く」「蓑虫鳴く」などがあるが、
言うまでもなくこれらの虫は声を出すことはない。
秋の夜長に虫たちの声をひとりぽつんと聞いている。
虫たちの言葉は日本語となって脳に届き、
さらには木や草のかすかなざわめきまで
命あるものの声としてとらえようとする。
日本の秋、日本人の秋は繊細で美しい。