森由里佳 15年8月2日放送
guyjasper
夏を感じる⑤ 花火師 青木昭夫
花火は、美しい。
しかし、本当に美しい花火とは何か、ご存じだろうか。
日本で最も美しい花火を作ると言われる花火師
青木昭夫さんによると、こうだ。
「花火には火薬粒が約3000個詰め込まれている。
その1粒が1ミリでもずれたら、
そのずれは大空で何千倍にも拡大されて、
花開いた時にどこから見ても球形に見える花火にはならない。
細部にまでこだわる緻密なモノづくりの精神がなければ、
到達できない花火だね」
どこから見ても球形に見える花火。
そこには、芸術としての美しさはもちろん、
花火を楽しみにしている全ての人への思いがつめこまれている。
一瞬のために1ミリの妥協も許さない職人魂は、
日本のモノづくりの未来にも、大輪を咲かせるに違いない。
森由里佳 15年8月2日放送
夏を感じる⑥ 江戸扇子職人 松井宏
京扇子のようなきらびやかさはなく、
キリっと粋な江戸扇子。
骨が少ないからこそ生みだせる強い風に感じるのは、
美しくも頑固な職人芸だ。
平安時代には、貴族の身分をあらわすシンボルでもあった扇子。
今となっては、誰でも簡単に手に入れることができるが、
伝統を守り続けてきた男には、思うことがあった。
無形文化財技術保持者の江戸扇子職人、松井宏だ。
お宮参りに始まり、七五三、成人式、結婚式、還暦、古稀、葬式…
扇子と日本人のつながりは一生続くのです。
だから、扇子は持つ人の人格を象徴するもの。
少々値段が高くても、本物を使ってほしい。
職人魂が光る江戸扇子。
そこから生まれる風たちはきっと、
持つ人の人生も、乗せてゆく。
飯國なつき 15年8月2日放送
Nyon-Nyon
夏を感じる⑦ 「さとうきび畑」
毎年、夏になると流れる歌がある。
ざわわ ざわわ ざわわ
広いさとうきび畑は
ざわわ ざわわ ざわわ
風が通り抜けるだけ
第二次世界大戦末期の沖縄戦で戦死した人々が眠る、夏のさとうきび畑。
父を失った少女は、通り抜ける風の音を聞きながら
静かに悲しみを訴える。
戦争を体験した世代にも、しなかった世代にも、
等しく悲しみを感じさせる「さとうきび畑」。
森山良子、ちあきなおみ、夏川りみといった往年の歌手から松浦亜弥まで、
幅広い年代の歌手に歌い継がれ続けている。
きっと、この夏も。
飯國なつき 15年8月2日放送
Dakiny
夏を感じる⑧ 綾部和
2000年に発売された、
大ヒットシミュレーションゲーム
『ぼくのなつやすみ』。
せみの声、虫取り、川のせせらぎ…
ゲーム内の環境音は、すべて実際の現場で収録。
森での収録では、蝶の羽ばたく音すら聞こえる、無音の世界が広がったという。
開発者の綾部和は、ゲームのコンセプトについてこう語る。
特定の夏休みではなく、
いろいろな人が経験したであろう
日本の平均的な夏休みを目指して作りました。
ですが、『ぼくのなつやすみ』の場合、
夏休みの後半になると、
郷愁というか寂しい雰囲気が出てくるんですよね。
徹底的に再現された懐かしさと、ほんの少し、寂しさのスパイス。
100万人以上のおとなたちが、ゲームを通じて、
こども時代の夏休みにひたった。
佐藤延夫 15年8月1日放送
M60E4
夏の風物詩 鍵屋
その昔、大和の国は篠原村に、弥兵衛という男がいた。
子どものころから火薬についての素養があったそうだ。
志を立て、故郷に別れを告げるときも
携えていたのは花火の筒。
江戸に向かう道すがら、花火を披露しては旅費を稼いでいたという。
やがて日本橋横山町に小さな店を構えると、
弥兵衛の確かな細工の花火は飛ぶように売れた。
弥兵衛の名前は、鍵屋として代々受け継がれていくことになる。
花火は夏の風物詩。
今年も日本中の夜空に、
大輪の花が咲くことでしょう。
佐藤延夫 15年8月1日放送
夏の風物詩 玉屋
江戸の花火屋の代表格、鍵屋の七代目には
腕のいい番頭、清吉がいた。
暖簾分けとなり玉屋を名乗ると、
鍵屋をしのぐほど人々の支持を集める。
両国の川開き花火では、鍵屋よりも上流を受け持った。
その技術の高さと人気を表す歌が残っている。
橋の上 玉や玉やの声ばかり なぜに鍵やといわぬ情けなし
しかし人気絶頂の玉屋は火事が原因で、
一代限りで江戸おかまいとなる。
初代玉屋は、花火のように燃え尽きてしまった。
佐藤延夫 15年8月1日放送
夏の風物詩 鍵屋のその後
江戸時代はオレンジ色しか出なかったという花火も、
明治以降になると材料、技術ともに目覚しい進歩を遂げる。
鍵屋の十代目弥兵衛は、
現在のように、まん丸く開く花火を開発した。
十一代目弥兵衛は塩素酸カリウムなどの新しい薬剤を用いて、
赤、青、緑の発色に成功したそうだ。
江戸時代から血縁を連綿と守り続けた鍵屋だが、
昭和40年、同業者に伝統と暖簾を託し
現在は十五代目に引き継がれている。
一瞬で消える花火にも、花火師たちの血の歴史が宿っている。
佐藤延夫 15年8月1日放送
Kropsoq
夏の風物詩 嘉瀬誠次
大正11年生まれの嘉瀬誠次さんは、
祖父の代から3代続く、新潟・長岡の花火師だ。
戦後初の三尺玉の打ち上げに成功し、
ナイアガラ、ミラクルスターマインなど
数々の花火を生み出した。
長岡の名物は、正三尺玉。
直径90センチ、重さ300キロの大玉で、
花火の直径は650メートルにもなる。
天才画家、山下清が描いた花火も、
嘉瀬さんの打ち上げたものだという。
今年もたくさんの花火が夜空を彩る、
長岡まつり大花火大会は、明日と明後日の2日間。
嘉瀬さんは、第一線を退いたあとも
花火に、平和な世の中への祈りを捧げている。
佐藤理人 15年7月26日放送
Bogdan Suditu
あの人の歌詞 いしわたり淳治
元スーパーカーのギタリストであり、
全曲の作詞を手がけたいしわたり淳治。
彼にとって歌詞とは、
聴き手の解釈を
コントロールするもの
好き勝手に書いて、
解釈を聴く人に委ねるものは歌詞じゃない。
日常の中で曲が最も機能するのはどんなときか。
景色、物語、人物を想像し、言葉に翻訳する。
それは空気の言語化。
SNSの発達で伝えることが好きな人は格段に増えた。
でも伝わり方について気にする人はどのくらいいるだろう。
みんなと同じようなことを、同じような言葉で書きながら、
自分は人とは違うと思いたがる時代。
だからこそ、と彼は言う。
言葉をうまく扱えることほど
カッコいいことってないと思う
佐藤理人 15年7月26日放送
jDevaun.Photography
あの人の歌詞 坂本慎太郎
元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎が
歌詞を書くときもっとも大切にすること。
それは
疾走感
スナップショットのように次々と耳に突き刺さる、
印象的でシンプルな言葉の連なり。
曲を聴いたとき一瞬でパッと映像が浮かぶ。
周りの空気が変わる。
聴く者のテンションを
決して失速させないそのスピードに
時代はまだ追いついていない。