三國菜恵 15年3月28日放送
気になるあの人/池谷裕二(いけがやゆうじ)
ある日、学術学会で発表の舞台に立ったとき。
会場の女性が全員美人に見えた。
脳科学者・池谷裕二の奇妙な経験。
人前での発表は緊張するから、
脳がそのドキドキを恋と勘違いしたらしい。
いわゆる、「吊り橋効果」というやつだ。
彼は思った。
脳ってホント、カワイイ。憎めないヤツ。
三島邦彦 15年3月28日放送
trialsanderrors
気になるあの人 フィシェ兄弟
19世紀のパリ。
小さな芝居小屋にかける劇の台本書きを
生業にしている兄弟がいた。
兄の名はマックス、弟の名はアレックス。
貧しさから抜け出すため、
その文才と暇な時間を活かし、恋文の代筆業を始めた。
恋文作家フィシェ兄弟。
彼らのもとには、
忙しい紳士、文才のない男たちからの依頼が
次々と舞い込み、一躍大もうけ。
やがてパリの一角には恋文の代筆業者が
軒を連ね、恋文横町と呼ばれた。
彼らは、数多くの依頼に素早く対応するため、
恋文の定型文を用意した。
たとえば、毎日手紙を求める女性たちに向けに作った、
曜日別の書き出しと結びの言葉の一覧表が残っている。
月曜の手紙の書き出しは、
うるわしの君よ
火曜の手紙の書き出しは、
小さな小さなお人形さん
パリの街を舞台に、
彼らが描く恋愛劇は、
来る日も来る日も繰り返された。
三島邦彦 15年3月28日放送
IbaGeo
気になるあの人/岡倉天心
岡倉天心。
ボストン美術館東洋部門部長をつとめるなど、
日本美術を世界に広める活動に生涯をかけた。
彼には、インドを訪れた時に知り合った女流詩人と
交わした30通を超える手紙が残っている。
これは、晩年の天心が送った手紙。
私は終日、浜辺に座し、逆巻く海を見つめています
いつの日か、海霧の中からあなたが立ちあがるかもしれないと思いながら。
天心がこの世を去った後も、
遠い海の向こうから、
天心の健康を案じる手紙が届き続けたという。
三島邦彦 15年3月28日放送
気になるあの人 鉄血宰相ビスマルク
その強烈な名前は、
歴史の教科書でも異彩を放つ。
鉄血宰相ビスマルク。
死後、彼が書いた多くの手紙が発見された。
これはその中の一節。
それにしても私をこの手紙と同封させるか、
郵便袋のなかの郵送物として一緒に飛んで行けるといいんだがね。
教科書に載っていない鉄血宰相の素顔。
それはユーモアあふれるロマンチストだったのかもしれない。
佐藤理人 15年3月22日放送
創造のジンクス①「ウルフの裸」
トマス・ウルフは焦っていた。
初の長編小説「天使よ故郷を見よ」を
書いた情熱がどうしても取り戻せない。
その夜もまた彼は
インスピレーションを得られぬまま
服を脱ぎベッドへ向かった。
しかし裸で窓の前に立った瞬間、
書くことへの情熱がみるみる溢れてきた。
以来、創作で行き詰まるたび、
彼はこの方法で執筆意欲を高めた。
背が2mあり、冷蔵庫を机代わりにするほど
身体的に発達していたウルフ。
自らの肉体美を愛でることで、
内なる野生を呼び覚ましていたのだろうか。
佐藤理人 15年3月22日放送
創造のジンクス②「ベートーヴェンの手洗い」
ベートーヴェンは一日に何度も手を洗った。
洗面台の前に立ち、大声で音階を唱え、
鼻歌を歌いながら水差しで手に水をかけた。
それから目をギョロギョロさせて部屋中を歩き回り、
何かメモしたかと思うと再び洗面台の前へ。
手洗いは彼に取って大切な瞑想の時間だった。
しかし大量の水漏れに怒った大家が
しょっちゅう怒鳴り込んで来た。
二人が罵り合う間に一体どれだけの名曲が
床に吸い込まれてしまったことだろう。
佐藤理人 15年3月22日放送
創造のジンクス③「ハイスミスのカタツムリ」
「太陽がいっぱい」の作者
パトリシア・ハイスミスの家は、
カタツムリでいっぱいだった。
カタツムリを見るとなぜか落ち着くの
彼女はカタツムリを300匹も飼い、
100匹を巨大なハンドバッグに入れて
パーティのお供に連れて来た。
その後フランスに引っ越したときは、
カタツムリの持ち込みが禁止されていたため、
胸の下に10匹ずつ隠して国境を何往復もしたと言う。
佐藤理人 15年3月22日放送
Verónica R.
創造のジンクス④「アレンのシャワー」
いいストーリーを作る秘訣は
考えすぎるほど考えること
映画監督で脚本家のウディ・アレンは言う。
ヒラメキを得るため、
彼が何年もかけて編み出した方法。
それは小さな変化を起こすこと。
食事をする。外出する。そういった刺激が、
新たな精神的エネルギーを生む。
中でも効果的なのが、
シャワーを浴びること
30分間、頭から熱いお湯を浴びながら
アイデアを考え、筋書きを組み立てる。
お風呂を出て服を着たらベッドで続きを考える。
それでも思いつかないときは、
またシャワーを浴びたくなるように
服を脱いで寒くなるのを待つそうだ。
もしもアレンが滝に打たれたら、
どんなすごいアイデアが浮かぶのだろう。
佐藤理人 15年3月22日放送
創造のジンクス⑤「キルケゴールの砂糖」
哲学者キルケゴールの
コーヒーの飲み方は一風変わっていた。
まずカップに縁より高い砂糖の山を作る。
上からとびきり濃いコーヒーを注ぎ、
白いピラミッドをゆっくり溶かして一気に飲む。
大量のブドウ糖は新たなエネルギーとなり、
彼の脳みそを一日中活発に動かし続けた。
絶望は死に至る病
と説いたキルケゴール。
心が疲れたとき甘いものが欲しくなるのは、
ちゃんと理由があるらしい。
佐藤理人 15年3月22日放送
docmoreau
創造のジンクス⑥「アームストロングの民間療法」
トランペッター、ルイ・アームストロングにとって
人生は旅そのものだった。
2万年くらい飛行機や列車に乗って来た気がする
そうボヤくほど毎晩どこかの町で演奏する日々。
健康を保つため、彼は民間療法にのめり込んだ。
喉を洗う効果があると信じて蜂蜜を飲み、
唇に手作りの怪しげな軟膏を塗り付けた。
医者たちの呆れ顔をよそに彼は常に健康で、
どんなにハードなツアーでも、
毎晩ハイレベルな演奏をこなし続けた。
人前で披露できなきゃ
音楽なんてなんの価値もないからね
彼にとってそれは習慣を超えた、
最高の音楽を届けるための儀式だった。