熊埜御堂由香 15年1月25日放送
Bakkai
はじまりのはなし 南木佳士と川
長男が生まれたころ、私は死のことばかり考えていた。
芥川賞作家、南木佳士(なぎけいし)。
当時、研修医として大学病院に勤務していた。
生まれて数カ月の長男をお風呂に入れていると、
病院からの呼び出しがかかり、患者のもとへ駆けつける。
人間の出発と臨終を交互に見せつけられる
生活をおくるうちに、心が凍りついてしまった。
これ以上、病院にいられないと思い詰めていたとき、
ふと、裏手にある川の岸に出てみようと思った。
川に目をこらすと、水中を泳ぐアユの群れやハヤの子が見えてきた。
この川の先にある、自然淘汰の厳しさにもかまわず、
精一杯、前に前にと泳いでいた。
小さな命を眺めているうちに、病院に戻ろうという気力が戻ってきた。
そのころから、南木は小説をかきはじめる。
そして、ひとの死を看取ることを専門とする「緩和医療」の道へ進んだ。
「生と死を見つめる」。
おなじ出発点から、彼は、小説家として、医師として
歩き続けた。
熊埜御堂由香 15年1月25日放送
はじまりのはなし 江國香織と絵本
小説家、江國香織。
今では恋愛小説の名手ともいわれる彼女だが、
童話作家として、キャリアをスタートした。
彼女のルーツともいえる本を紹介した1冊、
絵本を抱えて 部屋のすみへ
そのタイトルからは、小さなころから
本の虫だった江國さんの
かわいらしい姿が浮かんでくる。
茂木彩海 15年1月25日放送
coloneljohnbritt
はじまりのはなし メアリー・ケイ・アッシュ
1年のはじまり。1月。
今年の目標は?と聞かれたり、聞いたりして
考える機会は多いけれど、
実行に移せないこともあるのが、正直なところ。
アメリカで化粧品メーカー、メアリー・ケイを創立し、
わずか9人でスタートした企業を85万人が働く大企業へと成長させた
女性企業家、メアリー・ケイ・アッシュは言う。
航空力学的にはマルハナバチは
飛べるはずがないけれど、
マルハナバチは
航空力学なんて知らないから、
とりあえず飛び続けているのよ
このハチは、2センチほどのまるまる太った体に
ふわふわした毛が生えていて、その羽根は小さく、
航空力学的にみると飛ぶのはまるで不可能と言われてきた。
ところが、自分が飛べないことを知らないから、
堂々と飛べるのだ、というのがメアリーの見解。
できないと思うより手前で、飛び込んでしまう。
なにかをはじめる時にはそれくらい無鉄砲なほうが
強いのかもしれない。
1年のはじまり。1月。
さぁ、なにをはじめよう。
茂木彩海 15年1月25日放送
はじまりのはなし 柴田元幸
アメリカ文学の研究者、柴田元幸は
書き出しだけをあつめ、自ら新訳を行った世界文学全集の中で、
あの有名な物語のはじまりを、こう訳した。
私は猫だ。いまのところ名前はまだない。
ひとことで、世界が決まっていく。
だからこそ、物語のはじまりに
作家の力は注がれる。
小野麻利江 15年1月25日放送
はじまりのはなし キケロにとっての「はじまり」
新しい1年が、また始まった。
先行き不透明な、今日このごろ。
目標は心の中にあるけど、
カタチにできる自信が無い・・・
そう尻込みする人たちに、
古代ローマの哲学者、
キケロの言葉を贈りたい。
始まりは、どんなものでも小さい。
小野麻利江 15年1月25日放送
armycat
はじまりのはなし 野矢茂樹の「はじめて考えるときのように」
あなたが生まれてはじめて
「考える」という行為をした時、
頭の中には、どんな景色が浮かんでいただろう。
目の前の世界は、どのように映っていただろう。
哲学者の野矢茂樹の著書に、
『はじめて考えるときのように』という本がある。
副題は「『わかる』ための哲学的道案内」。
それは、考えるということについて、考える本。
中学生くらいの子どもに寄り添うような
優しいまなざしでつづられた文章の中で語られるのは、
私たちの考えが日頃、いかに多くの「当たり前」や
「見えない枠」にしばられているかということ。
そして、ヒト・モノ・コト、出会ったすべてを
頭につめこんで、ゆさぶったのち、空っぽにする。
そのくり返しこそが、「考える」ことではないかと
野矢は言う。
本当に「考える」ということ。
それはきっと、はじめて考えるときのように、考えること。
渋谷三紀 15年1月24日放送
「一」番手の背中/柳本晶一監督
女子バレーボールの柳本晶一監督。
シドニー五輪で13位と
史上最低順位にいたチームを、
次のアテネ五輪で五位にまで引き上げた。
柳本監督のあきらめない力は、
現役時代に育まれた。
天才セッター猫田勝敏の二番手に
甘んじ続けた悔しさだ。
柳本は言う。
「技術では自分が勝っていた。」
しかし、
「猫田には人間力があった。
猫田の上げたトスを打ってやるんだ。と、
ストライカーに思わせる力があった。」
二番手から見た一番手の背中が、
いちばん遠い。
しかし、その悔しさ以上に、
二番手を成長させるものは、ない。
渋谷三紀 15年1月24日放送
t-miki
「一」瞬で見えるもの 高倉健と岡村隆史
日本アカデミー賞授賞式。
そうそうたる俳優陣に混じり、
話題賞を受賞し壇上に立った、芸人岡村隆史。
「高倉健さんみたいな俳優になりたいです。」
周囲から失笑が起こり、
すべった…と岡村が思った瞬間、
客席から拍手が聞こえた。
そこにいたのは、高倉健そのひと。
「健さんのおかげで、会場が明るくなった。
助けていただいた。」
と、岡村はいまでも深く深く感謝している。
たった一瞬で、
人間の器の大きさが、見えてしまうことがある。
そこで見えるものは、おそらく、正しい。
宮田知明 15年1月24日放送
「1」にまつわる関係
「今日の1分を笑う者は、明日の1秒に泣く。」
これはイギリスの政治家、
フィリップ・チェスターフィールドの名言。
少しの時間でも大切にしなさい、という格言であるが、
日本にも、似た意味のことわざがある。
「一円を笑うものは、一円に泣く。」
時間とお金、別の概念ではあるが、本質的な考え方は同じ。
時間とお金とは、浪費されがちなものの代表のようだ。
そして、お金と時間の関係で言えば、古くからこんな言葉もある。
Time is money.(時は金なり)
時間とお金、両方を大切にするのは、人間の永遠のテーマかもしれない。
宮田知明 15年1月24日放送
miguel77
「1」対「1」
1対1。
チームプレーのスポーツにおいても、
時として個人同士の能力のぶつかり合いを見ることができる。
ポルトガルの名サッカー選手、ルイス・フィーゴは、
その卓越したドリブル能力への自信から、
「1対1になったら勝負しないわけにはいかない。
なぜならオレはドリブラーだからだ」と言った。
バスケットボールのマンガ、「スラムダンク」では、
ずば抜けた個人能力を持つ流川に対し、ライバルの仙道は言う。
「1対1もオフェンスの選択肢のひとつにすぎねえ。
それがわからねえうちは、おめーには負ける気がしねえ」
チームプレーを大切にするからこそ、個人能力が生きるのだ、ということ。
1対1か、チームプレーか。いずれも、正しい考え方のように思える。
あなたはどちらの考え方が、好きですか?