澁江俊一 15年1月17日放送
的中してしまった警告
日本の地震学に
多大な影響を与えた男、
今村明恒(いまむら あきつね)。
明治29年の三陸大地震の際、今村は
津波の原因が海底の地殻変動だと発表する。
今では当たり前の説だが、
当時は誰にも受け入れられなかった。
明治38年、今度は
東京で50年以内に大地震が起こると警告。
それが大々的に新聞に掲載されると
社会問題を引き起こしてしまう。
「ホラ吹きの今村」と中傷された彼だが
大正12年、警告どおり関東大震災が発生。
その直後、記者たちの質問に
しばらく同じ規模の地震は起こらないと断言。
それも見事に的中した。
世間は一転して今村を「地震の神様」と呼んだ。
震災当日の彼の日記には、こう書かれている。
わたしの警告は、非難され嘲られていたが、
それが現実に起きてしまう、
なんという不幸なことであろう。
自らの名誉より、
地震から人々を救うことを
今村は強く望んでいたのだった。
飯國なつき 15年1月11日放送
woodleywonderworks
片思い①「言い寄る」田辺聖子
片思い小説の名作と謳われる、田辺聖子の三部作。
一作目は、『言い寄る』。
主人公の乃里子は、奔放なプレイガール。
だが、長年片思いをしている五郎にだけは、指1本触れ合うことができない。
ほんとに言い寄れるのは、あんまり愛していない人間の場合である。
言い寄って拒絶されたら、さしちがえて死のうというような、
しんから惚れている人間の場合は、これは失敗を許されない…(後略)
そんな強烈な思いを持つ乃里子。
だが、ついぞ、その恋は叶うことがなかった。
好きな男と似合う男、というのは違うのかもしれない。
飯國なつき 15年1月11日放送
Sean McMenemy
片思い②「私的生活」田辺聖子
片思い小説の名作と謳われる、田辺聖子の三部作。
二作目は、『私的生活』。
それなりに楽しい結婚生活を送っていた、主人公の乃里子。
だが、3年目のある日、いまの生活は
「だましだまし」のものでしかないことに気づいてしまう。
別れを告げられ抵抗する夫に、乃里子はこんな思いを抱く。
私は返事に窮して、
「今まで、充分、やさしくしてあげたやないの」
などといってしまうにちがいない。
もう、あんたに対する「やさしさ」の玉は出つくした。予定終了になった。
あとはヨソの台にいってくれ、というような意味のひびく言葉を
放ってしまうかもしれない。
夫婦の間でも、片思いというのは起こるのかもしれない。
飯國なつき 15年1月11日放送
TexasEagle
片思い③「苺をつぶしながら」田辺聖子
片思い小説の名作と謳われる、田辺聖子の三部作。
三作目は、『苺をつぶしながら』。
片思いした独身時代、
片思いされた夫婦時代を経て、独り身となった、主人公の乃里子。
行きついたのは、友達としての男関係だった。
生活力の強そうな男って、
私にはごくたより甲斐がありそうに思われる。
しかし、それもいま、この一瞬だけの感動だと、私は知ってる。
そして友情なんてのは、一瞬をつなぎ合わせてりゃいいのだ。
この三部作を読みながら、
自分は今どこのステージにいるのだろう、
そんなことを考えてみるのも一興だ。
森由里佳 15年1月11日放送
よっちん
片思い④樋口一葉
恋は、美しいか?
樋口一葉は、
師である半井桃水への想いを綴った歌でこれを否定する。
みぐるしく、にくく、うくつらく、浅ましく、
かなしく、さびしく、恨めしき、厭う恋こそ、恋の奥なりけれ
見苦しく、悲しい「厭う恋」こそが、恋である。
まだまだ女性に対して閉鎖的だった時代に、
女性作家の文壇への道をひらいた一葉。
しかし、半井桃水への想いが通じることは、ついぞなかった。
「厭う恋」を厭いながらもその恋を抱え、
恋にも時代にも屈せず筆を握り続けた彼女の姿は、孤高ゆえに、美しい。
森由里佳 15年1月11日放送
片思い⑥藤原義孝
平安時代の歌の名手、藤原義孝。
稀代の美男子としても呼び声が高かったにも関わらず、
はやり病に倒れ、21歳の若さで亡くなってしまう。
君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
君が僕の事を想ってくれるなら、
この命だって惜しくないと思っていた。
でも、いざ、君が想ってくれていると知ったら、
少しでも永く、この幸せの中で生きたいと想うようになったんだよ。
愛は、その人のために生きることを望ませるが、
恋は、その人のためなら死さえ選ばせる。
片想いは、いつの時代も必死なのだ。
森由里佳 15年1月11日放送
片思い⑤小野小町
六歌仙として名を連ねる歌人、小野小町。
平安の才女が恋多き女性であったことは、
彼女が詠んだ歌からも伺える。
思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ
夢と知りせば 覚めざらましを
あの人のことを想いながら寝たから、
夢に彼が出てきたのだろうか。
もしも、夢だとわかっていたなら、
目を覚まさなかったのに。
片想いも、夢も、
さめたらそこで終わってしまう。
「夢中になる」とはよく言ったものだ。
蛭田瑞穂 15年1月11日放送
片思い⑦ロラン・バルト
フランスの思想家ロラン・バルトは
恋愛に関する著書でこんな故事を紹介している。
昔、中国のある高官が歌姫に恋をした。
「わたしの部屋の窓の下で、百夜お待ちくだされば、
あなたのものになりましょう」、女はそう言った。
男はそのとおりに待ち続けた。そして九十九日目の夜、
男は立ち上がり、静かにその場を立ち去った。
男はなぜ待つことをやめたのか。
もちろん、それは誰にもわからない。
どんな思想家にも解明のできない難問が恋愛なのだ。
蛭田瑞穂 15年1月11日放送
片思い⑧ウディ・アレン
恋愛映画の名手ウディ・アレンは
恋愛に関する数々の名セリフを残している。
恋をすることは苦しむことだ。
苦しみたくないなら、恋をしてはいけない。
でも、そうすると、恋をしていないということで
また苦しむことになる。
これは「ウディ・アレンの愛と死」でのセリフ。
恋愛とはサメのようなものだ。
常に前進していないと死んでしまう。
これは「アニー・ホール」でのセリフ。
そんなウディ・アレンの考える究極の恋愛とは?
長続きするたったひとつの愛の形は片思い。
勉強になります。
佐藤理人 15年1月10日放送
rahen z
一年の抱負①「村上春樹の早起き」
傑作は朝、生まれる。
作家村上春樹の朝は早い。4時に起き、午前中に執筆。
午後はランニングで体を鍛え、9時には就寝。
彼はこの生活をもう25年も続けている。
小説を書くには精神力だけでなく体力がいる
デビュー直後、座りっぱなしの毎日で太った彼は
生活を根本的に変えることを決意。
田舎に引っ越し、タバコをやめ、
野菜と魚中心の食生活に変えた。
こんな暮らしにも一つ欠点があると言う。
それは人づきあいが悪くなること。でも彼は言う。
読者とのつきあいの方がずっと大切だ
さて、新年。
今年の抱負は「早起き」なんていかがでしょう。
思わぬ傑作が生まれてくるかもしれません。