道山智之 14年9月20日放送
Luke.Larry
荒城の月④ ~土井晩翠
詩人・土井晩翠。
彼が書いた詩「荒城の月」に曲をつけたのは、
8歳下の作曲家、瀧廉太郎。
曲は公募で集められたため、曲づくりのために会うことはなかった。
彼らが出会ったのは1度だけ。
曲ができてから1年後の1902年、晩翠がヨーロッパに遊学中のことだった。
ドイツのライプツィヒ音楽院で学びはじめた廉太郎は、
わずか2カ月で結核を得て帰国の途についた。
その船がロンドン郊外ティルベリーの港に寄ったとき、
晩翠は廉太郎を見舞ったのだ。
最初で最後の対面。
ふたりはどんな言葉をかわしたのだろうか。
おたがいの仕事を、たたえあったのか。
テムズ川に月は映っていただろうか。
それから40年後、この曲を聞いて音楽家を志したのは、
まだ10歳だった中村八大。
その後「上を向いて歩こう」などの名曲を書いて
戦後の日本を勇気づけることになる。
何度会えたか、会えなかったか、にかかわらず、
想いは時をこえて共感され、かたちになっていく。
そんな地上の営みを、月はしずかに照らしている。
飯國なつき 14年9月14日放送
ESO
夜空を見る人①渡部潤一
南米チリ、標高5000メートルの砂漠に作られた、アルマ天文台。
高性能アンテナが並ぶその施設は、
「宇宙に一番近い天体観測施設」と言われている。
多くの天文学者が、夜空を見上げ、研究を続けている。
広大な宇宙の謎を解き明かしたい、その一心で。
アルマ天文台の設立にも関わった、国立天文台の副台長、
渡部潤一はこう語る。
一千億の星の集まりの中心から、28,000光年という距離にある
片田舎に、我々は住んでいるんです。
ずっと遠くの星では、誰かが夜空を見上げて、
我々と同じように想いを馳せているのかもしれない。
飯國なつき 14年9月14日放送
Morio
夜空を見る人②恩田陸
「夜のピクニック」という小説がある。
舞台となるのは“歩行祭”。作者の恩田陸が実際に体験した、
夜通し80キロ歩き続けるという学校行事だ。
歩き続けるうちにまわりはだんだん暗くなる。
隣を歩く友だちの顔が見えなくなるにつれて、
絡み合った人間関係が徐々に浮かび上がってくる。
みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。
どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろう。
登場人物の一人が、ぽつりと、そう漏らす。
話せなかったことが話せるようになる。
そんな不思議な空間を、夜空は演出してくれるのだ。
飯國なつき 14年9月14日放送
夜空を見る人③西山浩一、椛島冨士夫
アマチュア天文家の天才コンビと言われる二人組が、佐賀県にいる。
名前は、西山浩一さんと、椛島冨士夫さん。
新星を次々に発見し、世界の注目を浴びている彼ら。
新星を見つけ出すペースがあまりに速く、
天体観測の仲間からは「夜空の暴走族」と呼ばれているほどだ。
何より驚かされるのは、76才と74才のコンビだということ。
新星を見つけ出すのはとても地道な作業。
夏は8時間、冬は12時間、毎日観測し続ける二人の目標は、
「年齢を超える数まで、新星を発見すること」だという。
森由里佳 14年9月14日放送
夜空を見る人④夜空に恋したゴッホ「ローヌ川の星月夜」
夜を好んで描く画家は少ない。
しかし、ひとりの男が、夜空の魅力に心をうばわれた。
オランダ人画家、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。
火を灯したロウソクを何本も帽子にくくり付け、明け方まで絵筆を握った。
彼の作品、「ローヌ川の星月夜」は、
ガス灯のあかりや星ぼしの光が、
ローヌ川のみなもにゆらめく様子を描いた、
あざやかな夜の絵だ。
ゴッホは言う。
夜は、昼よりもずっと色彩豊かなのだよ。
森由里佳 14年9月14日放送
夜空を見る人⑤星を選んだゴッホ「星月夜」
夜空に魅せられた画家、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの作品、
「星月夜」。
夜空にうずをまくように描かれた大きな星ぼしと、
それを突き刺すかのようにそびえる糸杉の大樹。
ゴッホ晩年の傑作である。
とある手記の中でゴッホはこう述べている。
夜空の星は、町や村を表す、地図の上の点のようだ。
地図の上の点にはたどりつけるのに、
なぜ、夜空に輝く点には、たどりつけないのだろう。
僕らが星へと到達できるのは、死によってだけなのだ。
「星月夜」を描いた約1年後、ゴッホは自らの命を断つ。
彼は死を選んだのだろうか。
いや、星へ行くことを選んだにちがいない。
森由里佳 14年9月14日放送
夜空を見る人⑥星を想うゴッホ「夜のカフェテラス」
夜空に魅せられた画家、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの作品、
「夜のカフェテラス」。
黒を極力使わず、深みのある青で描かれた夜空に、
星ぼしがまるで花のように大きく咲いている。
星を大きく描いた心情を、ゴッホはこう説明する。
いつのまにかあんなに大きな星を描いていたんだ。
どこか遠くの星にもカフェテラスがあって、
その灯りがここまで届いている。
何かの理由でこのカフェに来られなくなったら、
その星のカフェに行こうと思っていたのかもしれない。
ゴッホは今、どの星のカフェテラスにいるのだろう。
蛭田瑞穂 14年9月14日放送
夜空を見る人⑦ライカ犬
史上初めて宇宙を旅することになった飛行士は
ライカという名の小さな雌の犬だった。
1957年、ライカを乗せたソ連の宇宙船
スプートニク2号は地球を周回し、
生物を宇宙に送るという史上初のミッションを成功させた。
だが、スプートニク2号は片道飛行の宇宙船だった。
機体はやがて大気圏に再突入し、瞬く間に燃え尽きた。
現在、ロシアにあるライカの記念碑には
こんな言葉が刻まれている。
ライカは知らない。その命の功績を。
彼女は地球を出て、永遠の星となった。
蛭田瑞穂 14年9月14日放送
夜空を見る人⑧フリーマン・ダイソン
夜空を見上げると、そこには無数の星が存在する。
無数の星が存在しながら、ひとつとして同じ星はない。
宇宙はなぜこれほど多様なのか。
いったい誰がこの多様さをつくりだしたのか。
この世界の多様性について、
理論物理学者フリーマン・ダイソン教授はこう話す。
多様性は生命が我々にもたらした大きな贈り物です。
地球が美しいのも多様性のおかげであり、
多様性を守り育てることは宇宙の大きな目標なのです。
佐藤理人 14年9月13日放送
wolfango
楽園的フライトプラン①「機上の空論」
電車の時刻表から
犯人のトリックを暴き出す男といえば、
西村京太郎の小説でおなじみ十津川警部。
では、飛行機の時刻表から
極上のトリップを導き出す男といえば?
答はマンボミュージシャン、パラダイス山元。
1つの航空会社だけを使って、
1日に最高何回飛べるか?
子ども時代に電車の時刻表で夢見たことを、
大人になった彼は飛行機でやってみた。
羽田、福岡、千歳、高知、また福岡…。
観光もグルメも一切ナシ。
空港に着くやいなや再びゲートに引き返し、
乗ってきた飛行機に乗り込む。
その間わずか30分。
かくして彼は1日11回のフライトに成功。
机上の空論を、機上で実践した。